ヴァーホーベンの感性に世界が追いついた!フェミニズム的視座でひも解く『ベネデッタ』への系譜
監督デビュー時から一貫して変わらないアナーキストとしての本質
本作の大きな主題の一つであるレズビアニズムも、キリスト教原理主義からは大罪扱いを受けるが、勇猛果敢なベネデッタとバルトロメアは既成のコードを突破していく。先ほどヴァーホーベンのフェミニストとしての評価の向上について記したが、むしろ彼の本質はアナーキストだろう。すべての制度的な抑圧にNOを叩きつけ、自由や混沌を歓迎する存在。
例えば、『ロボコップ』(87)でハリウッドに本格進出する以前――初期オランダ時代の傑作『4番目の男』(83)は、バイセクシュアルの男性の作家が主人公だ。続く『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』(85)は、中世残酷絵巻という点で『ベネデッタ』と共通項の多い一本なのだが、セクシュアリティやジェンダーに関しても、徹底してアナーキーな自由主義であることがよくわかる。
そして大きなシステムに抑圧されている側、虐げられているマイノリティ、男性原理に支配されてきた女性側などにヴァーホーベンは着目し、彼らに反逆のパワーを持たせるのである。
さらに、もう理屈では説明できない嗜好と言うべき「変態性」がねちっこく絡むのがヴァーホーベンの特異な魅力だ。グロテスクな描写の過剰さも、人間というものをまるで昆虫のようにひたすら冷徹に観察する目から来るものだろう。知的で狂っていて濃厚――そんなやんちゃな巨匠の真骨頂を堪能できるのが『ベネデッタ』である。やっぱり最高だ!
文/森直人
作品情報へ