『BLUE GIANT』をレビュー!それぞれの心に燃える“青い炎”と、極上のジャズ体験
シリーズ累計900万部を突破した石塚真一による伝説的ジャズコミックを原作とするアニメーション映画『BLUE GIANT』が公開中だ。『名探偵コナン 黒鉄の魚影』(4月14日公開)が控える立川譲監督のメガホンのもと、山田裕貴が主人公である宮本大、間宮祥太朗がスゴ腕ピアニストの沢辺雪祈、岡山天音が大の影響でドラムを始める玉田俊二に声をあて、いまだかつてないジャズ体験をもたらす青春ドラマが描かれた。そこで今回は、ジャズに情熱の限りを注ぐ若者たちが織りなす人間ドラマに触れつつ、その圧倒的熱量についてレビューしたい。
ブレない信念、葛藤、苦悩。様々な想いが交差する、熱くて、激しい青春
かつて友人と初めて訪れたライブハウスで“ジャズにうたれた”大は、雨の日も雪の日も欠かすことなく河原でテナーサックスの練習を続けてきた。そして本格的なジャズ活動のために仙台から上京し、同じく東京で一人暮らしをする高校の同級生である玉田のアパートに転がり込む。
本作では、大が玉田や雪祈と東京でジャズトリオ“JASS”を結成し、日本最高のジャズクラブ「So Blue」出演の夢をかなえるべく切磋琢磨する姿を活写する。原作の仙台パートである“自分の演奏スタイルを獲得していく大の高校生時代”を飛び越えてじっくり描いたのは、大が仲間と織りなす、熱くて、激しい成長の人間ドラマだ。
大はブレない、あきらめない。くじけそうになっても「オレは世界一のジャズプレーヤーになる」という言葉で自分を鼓舞して、ひたすら突き進んでいく信念の男だ。作品では世界一輝くジャズプレーヤーのことを“ブルージャイアント=青色巨星”に例えているが、あまりの温度の高さゆえに、その色は赤を通り越して青になるのだという。仙台出身の朴訥な青年の心の内に燃え盛る炎の色が、その青に重なるのだ。ステージを経験するごとに濃密に、より迫力を増していく彼の魂の演奏に、心を鷲づかみにされる。
一方、4歳の頃からピアノを弾き続けてきた雪祈は、その超絶技巧で大と出会った頃には、18歳にしてすでに東京のジャズシーンで名の知られる存在であった。しかし、「テクニックのみに終始する面白味のないピアノ」と指摘された彼は自分の殻を破ることができずにもがき苦しむ。また、大に感化されてJASSに加わったジャズ&ドラムともに初心者である玉田は、初めて触れたジャズに夢中になるも、レベルの低い自分がメンバーでいることに葛藤する。深い苦悩の果て、それでもJASSでいることを選んだ2人の覚悟、犠牲、その努力に誰しも勇気づけられるはずだ。
そこまで彼らをジャズへと向かわせるものはなんなのだろう。その理由を探る一助となるのは、のちにJASSの練習場となるジャズバー「Jazz TAKE TWO」に、大が初めて訪れた際の一幕かもしれない。彼は壁一面に収められた店主アキコ(声:木下紗華)の膨大なジャズレコードコレクションを見て直感的に悟る。「この人、ジャズを信じてんだな」。このセリフはジャズに没頭する彼ら3人にそのまま当てはまる一言ではなかったか。すべてのことをそぎ落とし、がむしゃらにジャズへとひた走る大、玉田、雪祈。その潔い献身ぶり、そのひたむきな青春に我々は感動せずにいられないのだ。