『ちひろさん』のフードスタイリスト・飯島奈美が語る、お弁当作りに込めた想いと食の大切さ
安田弘之による同名コミックを、有村架純を主演に迎え、『愛がなんだ』(19)や『窓辺にて』(公開中)の今泉力哉監督が実写映画化した『ちひろさん』(Netflixにて全世界配信&劇場公開中)。本作は、常識に囚われず、常にフラットな元風俗嬢の主人公、ちひろさんが、孤独や寂しさ、様々なわだかまりを抱えた人々と交流していく人間ドラマ。そんな本作に彩りを添えるのが、ちひろさんが働いている「のこのこ弁当」のお弁当を中心とした、美味しそうな料理の数々だ。
「生きること」と「食べること」。人生において表裏一体となっている営みを描きだす本作にフードスタイリストとして参加しているのは、『かもめ食堂』(06)や『南極料理人』(09)、ドラマ「深夜食堂」シリーズなどを手掛けてきた飯島奈美。本作に登場する、登場人物たちの物語が詰まったお弁当へのこだわりから、料理のプロである飯島にとっての「食の大切さ」までを語ってもらった。
「お弁当を作る時に意識しているのは、ムダなものは入れないこと」
小さなお店ながら、街中の人々から愛されている「のこのこ弁当」。何種類ものお弁当が登場するが、飯島は「漬け物や小さいおかずなど、入っているものが全部おいしいお弁当にしたい」ということで、細部までこだわった。「原作でも、ちひろがお弁当を『漬け物と梅干しがクソうまい!』と言っているのですが、それがおいしいのは(全体のバランスが)よく考えられている証拠ですし、チャームポイントでもありますから」。
なかでも、季節ものの食材である栗やたけのこを用意するのに苦心したそうだ。「栗が出てくるのは3月の撮影でしたが、その時期だと殻つきの栗は手に入らないので、前年の9月に栗を大量に購入し、事務所の冷蔵庫と冷凍庫に半年間保管しました。たけのこの撮影時期は、旬の少し前だったので、値段が高くて入荷も安定していなかったのでドキドキしました」。
今泉監督も飯島が手掛けた料理について「梅干しも何種類も用意していただいたり、筍や栗などを用いた季節感の演出で、撮影期間中に手に入らないものに関しては早めに調達するなど、丁寧に準備してくださいました」と感謝していた。また、「もちろん、『のこのこ』の弁当は美味しそうでいいですが、例えば、表面上は“いい家族”であるオカジ家の食卓は美味しそうなんだけど、実は根幹に問題がある。それによる冷たさも出さなきゃいけなかった。どのくらい豪華にするかなどを含めて、飯島さんと相談しながら作っていきました」と、背景を明かしている。