原作者・安田弘之&今泉力哉監督が語り合う、いまを生きる人が『ちひろさん』に癒される理由「人は誰もが“見抜かれたい”」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
原作者・安田弘之&今泉力哉監督が語り合う、いまを生きる人が『ちひろさん』に癒される理由「人は誰もが“見抜かれたい”」

インタビュー

原作者・安田弘之&今泉力哉監督が語り合う、いまを生きる人が『ちひろさん』に癒される理由「人は誰もが“見抜かれたい”」

安田弘之の同名漫画を有村架純主演で実写映画化した『ちひろさん』が、いよいよ2月23日(木・祝)よりNetflixにて世界配信&劇場公開される。原作漫画が発売されてから、孤独を愛し、常識にとらわれない主人公のちひろさんには根強いファンがいるが、本作でメガホンを取った今泉力哉監督も「原作に触れた時、ちひろさんを生みだした作者に会いたいと思った」と大いに魅了されたという。一方の安田は、実写映画を観て「大満足!太鼓判を押します」と興奮しきり。お互いのものづくりの姿勢に共鳴した安田と今泉監督が、ちひろさんが人々を癒す理由について語り合った。

「原作を読んだ時に、温度感がとても心地よかった」(今泉)

本作の主人公は、元風俗嬢で、いまはとある海辺の町の小さなお弁当屋さんで働いている、ちひろ(有村)。誰に対してもわけ隔てなく接するちひろの元には、孤独を抱えた人々が吸い寄せられるように集まり、ちひろはそんな彼らとご飯を食べ、言葉をかけながら、それぞれの孤独と向き合い進んでいけるように背中を押していく。

――今泉監督は、最初に原作を読んだ時にどのような印象を持ちましたか?

名シーン&名言の宝庫!熱狂的支持を集めている安田弘之による漫画「ちひろさん」の実写化が実現した
名シーン&名言の宝庫!熱狂的支持を集めている安田弘之による漫画「ちひろさん」の実写化が実現した「ちひろさん」第1巻〜第9巻 著/ 安田弘之 発売中 価格:各748円(税込)  発売/秋田書店

今泉「孤独をネガティブに捉えることなく、当たり前に存在するものとして描いているのが印象的でした。家族との関係がうまくいかない人にも、ちひろさんは『こうすればいいんだよ』という言葉をかけたり、『これが正解だ』というものを提示するのではなく、ただその人に寄り添い、ちょっとした言葉を交わしていく。決して押し付けがましくない、その温度感がとても心地よくて。『この漫画を生みだした人の話を聞いてみたい』と思いました」

――安田さんが、ぜひこのチームに「ちひろさん」を任せたいと思われたのはどのような理由からでしょうか。

安田「まず映像化の企画を持ってきてくださった制作の方々が、ガチでつくりに来ていることがわかったからです(笑)」

今泉「ガチ!(笑)」

安田「こちらは、自分にとって『ちひろさん』は本当に大事な作品なので、『迂闊に渡すことはできんぞ』と思っているわけです。制作の方々は、この作品のことが大好きで、読み込んだうえで『映像化したい』と言ってくださった。そこに大人の事情のようなノイズは一切なく、純粋な想いを感じたということが、一つめの手応えです。そして今泉監督とお会いして、話をした時に第二の手応えを感じました。今泉監督とは、作品をつくるうえでの“世界の切り取り方”が似ているなと思っていて。僕も今泉監督も、正解を決めつけずに世界を見ているようなところがある」

――かなり共鳴するところが多かったようですね。


【写真を見る】原作者の安田弘之、有村架純演じるちひろさんに「いい感じに裏切られました(笑)」
【写真を見る】原作者の安田弘之、有村架純演じるちひろさんに「いい感じに裏切られました(笑)」[c]2023 Asmik Ace, Inc. [c]安田弘之(秋田書店)2014

安田「そうなんですよ。今泉監督は、作品を楽しんでくれる観客に『こういうお話です』と明快なものを与えるのではなく、その人なりに受け止めて、その人なりに感じたものを持ち帰ってもらいたいという想いをお持ちだと感じますが、それは僕が作品に向かう時の心境とまったく同じものです。『この人は、僕と同じことをやっているぞ』と思うことが、とても多かった。さらに言うならば、物語って“線”としてつないでいくものかもしれませんが、僕は『ちひろさん』を“線”ではなく、“点の集合体”として描いていました。これまでの監督の作品を観ていても、今泉監督ならば、僕が点として並べたものを“画”として切り取りつつ、また点として並べてくれるだろうという信頼を置くことができました」

今泉「いま安田さんのお話を聞いていて、納得したことがあって。実写版は、ちひろさんが猫を追いかけているシーンから始まりますが、脚本上はそうではなかったんです。撮った素材を見ながら『猫を追いかけている。これがちひろだな』と思い、編集の時点で決めていったものです。安田さんが物語を“線”として考えていなかったように、僕もそういった作り方をしているなと思いました。また『正解を決めつけない』というお話がありましたが、僕はいつも『いいと言われている行動の裏では、悲しんでいる人がいるかもしれない』『このSNSの炎上騒ぎは、本当にこの人が悪いのか?』など、いつも別視点から物事を見ることを意識しています」

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