「ハムナプトラ」俳優が魂のカムバック!ブレンダン・フレイザーが主演作で見せた“すごみ”の源は?
フレイザー自身の境遇とも重なるチャーリーのキャラクターが真に迫る
フレイザーにとって『ブレンダン・フレイザー 追撃者』(13)以来となる主演作『ザ・ホエール』は、妻子を捨てて同性の教え子と暮らした中年男チャーリーの物語。その最愛の人を亡くしたショックでアパートに引きこもったチャーリーは、肥満により1人で立つことすらできない状態に。そんな彼がある行動に出たことで、周囲に波紋を呼んでいく。
監督は『ブラック・スワン』(10)、『マザー!』(17)のダーレン・アロノフスキー。原作は劇作家サミュエル・D・ハンターの舞台劇で、映画版の脚本もハンター自身が書いている。物語はほぼアパートのリビングのみで、チャーリーはほとんど中央に置かれたソファーに座ったまま。舞台劇らしい構成だが、ラストに映画的な見せ場を仕込むあたりはアロノフスキー的。登場人物の誰もが秘密の顔を持っていて、常に不穏な空気が流れているところもアロノフスキー作品らしい。
そんな本作の一番の見せ場は、やはりフレイザー演じるチャーリーだ。272kgの巨体はリアルな特殊メイク。チャーリーになるため、ボディスーツの装着とメイクに毎日4時間以上かけたという。動くことすらままならないフレイザーが、表情やセリフ回し、わずかな身振りで複雑な内面を抱えた男を演じる様は圧巻。鬼気迫るなかにユーモアや悲哀をにじませるところは、かつてのフレイザーそのままだ。大切な人を亡くした喪失感、妻子への罪悪感、不自由な体に対する鬱憤…チャーリーのキャラクターはフレイザー自身の姿と重なる部分が少なくない。フレイザーは役を理解しきって演じたはずで、それも成功の要因だろう。
復活を遂げたフレイザーをドウェイン・ジョンソンら大勢が称賛
本作は2022年の第79回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品。上映後には6分間のスタンディングオベーションが沸き起こり、会場にいたフレイザーが観客に微笑みながら涙を流す姿が世界中に配信された。その光景を目にした多くの映画人が彼に称賛を送ったが、その一人がドウェイン・ジョンソン。「ハムナプトラ」シリーズで本格的に俳優業に進出した彼は「美しい光景に心を打たれた」とコメントし話題を呼んだ。
フレイザーの次回作は、レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ共演のマーティン・スコセッシ監督作『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』(23)。『ザ・ホエール』はもちろん、新たなステージに立ったフレイザーの今後の活躍は要チェックだ。
文/神武団四郎