極上の劇場環境でこそ映える!唯一無二の体験型ドキュメンタリー『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』のスゴさ
映画だけのミックスやジェフ・ベックとの貴重な共演シーンも
なかでも、本作の要になっているのが音楽だ。モーゲンが映像を編集していくうえで音楽をベースしたこともあって、映画が始まって終わるまでボウイの曲が鳴りっぱなし。そこで驚かされるのが、映画用に曲をリミックスしていることだ。別の曲のドラムとヴォーカルを合体させたり、ドラムのパートだけをループさせたりと本作でしか聴けないミックスが楽しめる。そこまで自由に曲をいじれたのは、デヴィッド・ボウイ財団がモーゲンを全面的に信頼していたからだろう。
また、貴重な映像の数々も見逃せない。例えば、1973年に行われた「ジギー・スターダスト」ツアーの最終日の模様。映画化&ライヴ盤化もされた伝説のライヴだが、本作ではこれまでカットされていたジェフ・ベックとの共演シーンを収録。今年惜しくも亡くなったベックの荒々しいギタープレイがライヴを盛り上げる。『ボヘミアン・ラプソディ』(18)でアカデミー賞最優秀音響編集賞を受賞したジョン・ワーハーストとニーナ・ハートストーンのコンビが音響監督として参加しており、その臨場感あふれるサウンドに圧倒される。
観客それぞれのボウイと出会うイマジネーションあふれる作品に
ボウイが残したものを自由に使って世界を再構築した本作は、モーゲンとボウイとのコラボレーションと言えるかもしれない。この映画にはデヴィッド・ジョーンズ(ボウイの本名)が作りだした様々なボウイが、パラレルワールドのように存在している。ファンはこれまで見たことがなかったボウイに出会えるかもしれないし、本作で初めてボウイに触れた者は、自分の好きなボウイを入り口にして、そこから深掘りしていくのもいいかもしれない。
アートムービーのように個性的でエンタテインメントとしても楽しめる本作は、ボウイの音楽と同じようにイマジネーションを刺激する。きっと、映画を観るたびに新しい発見があるはずだ。
文/村尾泰郎