『わた婚』原作者・顎木あくみ×担当編集者がスペシャル対談!清霞と美世の関係性を描く秘訣は、“急激に進展させない”こと
「新があまりにもかっこよくて動揺してしまいました(笑)」(顎木)
──清霞と美世以外で気になったキャラクターはいますか?
顎木「新(渡邊圭祐)ですね!清霞に負けないくらいかっこよくしていただいたので、美世の揺れる気持ちもわかるなと思いました。いや、美世は揺れていないんですけど。揺れているのは私でした(笑)」
木藤「L文庫の男性編集長も新にメロメロで、見終わったあと『かっこよかった~』と言ってましたよね(笑)」
木藤「清霞をちょっと敵視していて。初対面で握手をする時の挑発的な表情など、微妙な表情の作り方がすごくよかったですよね。清霞に対する態度と美世に対する態度のギャップもあったりして」
顎木「それが新というキャラクターのすべてなんですよね。信用していない人にはにこやかで当たり障りがない対応をするけど、薄刃家や美世のことになると切実。必死なところも上手く表現してくださっていたと思います」
──小説の中で、難産だったキャラクターはいますか?
木藤「基本的に顎木さんはご自分でお話を組み立て、かなり完成した状態の原稿をくださるので、あまりいない印象ですね。特に1~2巻のキャラクターはするっと出てきていたのでは?」
顎木「パッと出てくるんですけど、その後どう活躍させるか困ることはたまにあります。映画には出てきませんが、幸次(小越勇輝)の兄の一志とか。出したはいいけど、どう活躍させようかずっと考えていたり…最近やっと活躍できたのでよかったですが(笑)。でも、木藤さんからアイデアをいただくことも多いですよ」
木藤「最近だと、6巻の時に相談してくださいましたよね。『清霞と美世が離れ離れの時間が長いから、どうしよう…?』って」
──そういった状況も含め、清霞と美世の関係を描くうえで気をつけていることは?
顎木「やっぱり、急激に進展させないようにしています。2人はああなので(笑)、一足飛びにくっつくのは不自然。それだけは最初からずっと気をつけていますね」
木藤「以前、顎木さんが『人間はそんなにすぐには変われない』とおっしゃっていたのが印象深くて。だから、美世は一進一退で同じ間違いもするし、成長したと思ったのに似たようなことで悩んだりもする。それって、すごくリアルだなと思いました」
顎木「そうですね。ただ、あまりにモタモタし過ぎるとお話の魅力が減っちゃうので。創作物としての塩梅も気にしつつではありますけど」
木藤「美世も清霞も、愛情をたくさん受けて育った人間とはまた違う。両親からの愛情を十分受けて育っていればあそこまで悩まないだろうし、人のことも信じられると思うんですが、そういった意味で2人ともまだまだ未熟なんですよね。だからこそ、6巻でお互いを本当に信じ合うところまでようやくたどり着けて。ファンタジーのシンデレラストーリーではありますが、そのスピード感も感情移入できるところかなと思います」
──ゆったりしたスピード感でありながら、キュンとさせられもします。
顎木「やっぱり、美世の感情が大きく動くところはすごく意識して書いています。ご飯を褒められて泣いちゃったり、櫛をもらって笑顔を見せたり。そういった感情の動きに触れ、清霞の感情も動いていきますし」
木藤「初めはツンケンしていた清霞が美世の健気さに触れ、彼女のことが気になっていく。美世も心がほぐれていくのにつれ、いつの間にか彼を好きになっていく。『ここで一段階、好き度が上がりました』という場面があったほうが盛り上がりますし、読者さんの心も清霞と一緒に動きますよね。しかし決してやりすぎない。そういった“キュン”の作り方が、顎木さんは本当にお上手です」
顎木「乙女ゲームで培いました(笑)。あまり過剰なスキンシップや甘い言葉があると逆に冷めるというか、『そうはならんやろ』となってしまうので」
ラブストーリーの醍醐味である“キュン”だけでなく、息を呑む異能のバトルも展開する壮大なファンタジー『わたしの幸せな結婚』。ぜひ原作と読み比べながら、その美しい世界にどっぷりと浸かってほしい。
取材・文/渡邉ひかる