「みんな僕がフランス人だってことを忘れている」40年ぶりに母国で挑んだ『愛人/ラマン』の巨匠ジャン=ジャック・アノーを直撃!
「僕がやりたかったのは黒澤明やデヴィッド・リーンのように、どこかほかの場所に連れて行ってくれる作品」
作品の成否を決定づける撮影地に関しては、フランス国内にいつくかある大聖堂を上手に組み合わせたものだとか。
「僕は中世の建築物について勉強していて、もともとゴシック様式の大聖堂に関しては詳しかったんです。そこで、主役(ノートルダム大聖堂)は焼け落ちて使えないわけですから“ボディダブル”を探しました。まず足を運んだのはパリの南にあるサンスです。そこにはノートルダム大聖堂と同じ建築家が手掛けた史上初のゴシック様式のサンス大聖堂があって、床が同じ素材ですし、礼拝者が座るあたりの設が酷似していたので、これは使えるなと。一方、尖塔の部分はフランス中部のブールジュへ移動して、俗に“ノートルダム大聖堂の娘”と呼ばれている大聖堂で撮りました。ですから、ローアングルはサンス、ハイアングルはブールジュ、燃やさなければいけない箇所はパリ南東部にあるブリ=シュル=マルヌのスタジオにセットを組んで燃やしました。再現したセットに足を踏み入れた大聖堂の関係者はみんな驚いていましたよ。というのも、使われている石は本物と同じ採石場から運んできたもので、それでノートルダムのアイコンであるガーゴイル(怪物の姿をした雨樋)を作ったのですから。そんなパズルのような組み合わせがこの映画の楽しさでありマジックだと思います」。
クライマックスでは6人の若き消防士たちが燃え盛る炎の中に飛び込んでいく姿を描いて、観客のエモーションに訴えかけてくる。それを見ると、9.11関連の作品や火災映画の名作『タワーリング・インフェルノ』(74)を連想させ、これまでも、フランス映画の枠に収まらない活動を続けてきたアノー監督ならではの最新作だと感じる。
「みんな僕がフランス人だってことを忘れているのです(笑)。例えば、アメリカとかカナダに行くとカナダのフランス語圏に住んでいるカナダ人だと思われるし、そもそもほとんどのフランス人が僕のことをフランス人だとは思ってない。考えてみたら、映画学校に通っているころからヌーヴェルヴァーグなんかには全然興味がなかったですね。僕がやりたかったのは黒澤明やデヴィッド・リーンのように、どこかほかの場所に連れて行ってくれる作品でした。だから、いまだに広大なロケ地でスペクタクルなセットを組んで大きな物語を語るのが好きです。僕自身が感情を喚起されるような。僕が生涯をかけてやろうとしているのは、観客にエモーションを与えること、そして、大きなスクリーンで彼らを包み込んで映画的な体験でいっぱいにすることです」。