「みんな僕がフランス人だってことを忘れている」40年ぶりに母国で挑んだ『愛人/ラマン』の巨匠ジャン=ジャック・アノーを直撃!
「言語は問題じゃない。感情が伝わればどんな言語でも演出できる」
アノー監督の作品はロケ地も世界各国に飛んでいる。監督デビュー作の『ブラック・アンド・ホワイト・イン・カラー』(76)はコートジボワール代表としてアカデミー外国語映画賞(現・国際長編映画賞)を受賞し、『愛人/ラマン』(92)はベトナム、ブラッド・ピットを主演に迎えた『セブン・イヤーズ・イン・チベット』はチベットとアルゼンチン、前作の『神なるオオカミ』(15)は中国の内モンゴルで撮影した。最新作は実に40年ぶりのフランスでのロケ作品である。
「本作のエグゼクティブ・プロデューサーに最新作の話をしたら、即答で『パスポートを新しくしたばかりだから大丈夫だよ』と言われたから、こう答えたんです、『心配いらないよ、今回はメトロカード1枚で済むから』って(笑)。確かにフランス語の映画を作ったのは40年ぶりです。『神なるオオカミ』は中国語でしたからね。でも、言語は問題じゃない。感情が伝わればどんな言語でも演出できると思っています。これまで世界を旅してきましたが、特にアジアには格別な思い入れがあります。文明、物事を真剣に受け止める姿勢、それらはアジア独特のものです。日本、韓国、中国、ベトナム、カンボジア…アジアにいるととても幸せな気持ちになれるのです」。
さて、次のロケでは久しぶりにパスポートが必要なのだろうか?「わかりません。そろそろ契約締結なのですが、言ってはいけないことになっているのです。いつもどおり複雑な作品になりそうでして、ロケ地に関しても様々なアイデアがあるのですが、例えば、綺麗な森なら日本にもチリにもベトナムにもある。だから世界中をロケハンして自分にとって最良のコンビネーションを考えたいです。(新型コロナウイルスの)パンデミック以前は1週間で3回飛行機に乗るようなパイロットみたいな生活でした。それが、ここ1年はどこにも行けてない。今回も大好きな日本に行けなかったのが残念です。旅をして、現地の人と触れ合うことで見えてくるものがありますよね。我々の違いというのは、我々に共通しているものに比べれば実に些細なことなのです」。
取材・文/清藤秀人