離婚は”女優にとって不義の罰”?新たな視点で“再出発”を描いた韓国ドラマ「離婚弁護士シン・ソンハン」
リー・アイザック・チョン監督『ミナリ』(20)で祖母役を演じ、韓国人で初めて米アカデミー賞助演女優賞を受賞したユン・ヨジョンは、若い頃プライベートで理不尽な経験をした。1972年、当時歌手だった男性と結婚するが、13年後に離婚。ユン・ヨジョンら女優たちがざっくばらんにトークするフェイクドキュメンタリー『女優たち』(09)によれば、「離婚した女優がテレビに出るのは良くない」とテレビのディレクター陣に言われた彼女は、しばらく公に姿を見せられなかったという。この映画の中にある”女優にとって不義の罰”というセリフのように、特に女性有名人は離婚による差別的な視線と悪意に晒される。「離婚弁護士シン・ソンハン」は、こうしたアンタッチャブルな離婚という問題をこれまでとは異なる視点で扱うドラマだ。
シン・ソンハン(チョ・スンウ)は、離婚を専門とする弁護士。やや風変わりな性格のソンハンは、かつては海外でも活躍するほど才能あるピアニストだったが、最愛の妹ジュファ(コン・ヒョンジ)の理不尽な離婚と死をきっかけに夢を中断した。彼は離婚をめぐるあらゆる無理難題に手を焼きつつ、ジュファが命を落とした謎を解き明かそうとしている。
最近の韓国ドラマの中ではコンパクトな 全12話というシリーズながら、優しさを感じさせる演出と心地よいストーリーテリング、俳優陣の丁寧で質の高い演技が静かに評判を呼び、終盤に差し掛かるとこの春最大のNetflix注目作「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」シーズン2を追い抜き、とうとうテレビ番組部門で日本1位に躍り出た。(4月6日現在)
不完全だからこそ人間。「離婚弁護士シン・ソンハン」の多様な依頼人たち
ドラマでメインとなるエピソードが、第一話で登場するソジンの事案だ。人気ラジオDJだった彼女は、自身のファンであった美容師の青年と不倫。ところが、知らないうちに性行為の動画を撮影され、ネットで拡散されてしまい番組を降板した。離婚訴訟を起こした夫ヒソプ(パク・ジョンピョ)から一人息子ヒョヌ(チャン・ソニュル)の親権を勝ち取るため、シン・ソンハンへ依頼する。ソジンはソンハンの手腕でヒョヌの親権を手にし、彼の弁護士事務所で働くことになるが、世間の口さがない噂話や視線に息を潜め、出回る自身の動画に怯えながら生活している。
ソジンの夫は彼女の兄の借金を肩代わりするなど、配偶者として責任を果たしている一面があるが、束縛が激しく、妻のすべての行動に陰湿な言いがかりをつけるモラルハラスメント体質だった。ソジンはそうした息苦しさから家庭の外に愛情と安らぎを求めた。不倫をした社会的責任はあるが、交際相手から意図せず性的な画像を公開させられた、リベンジポルノの被害者でもある。ソジンの過ちは、ここまで自尊心を深く傷つけられるほど罪深いのだろうか。
離婚問題を言い争う最中で姑に暴力を振るってしまった嫁。年上の夫を陥れて離婚しようとする外国人妻。そして、不倫をしたソジン。このように「離婚弁護士シン・ソンハン」の依頼人は、必ずしも一点の非も無い被害者というわけではない。しかし皆、そこに至るまでの抜き差しならない苦悩や絶望がある。そうしたでこぼことした人間性が生む陰影が、キャラクターに十分なリアリティを与える。離婚という選択を取る夫婦にも情愛が残ると信じるソンハンは、不完全な依頼人はもちろん、ケースによっては争う相手のことも強く糾弾しない。一点の非もない純粋な者だけが正しく守られるべきという厳格さは、結果として誰も救わないのではないだろうか。そうしたメッセージを気負わずに打ち出すからこそ、観る者の共感を呼ぶのだろう。