映像BL戦国時代になぜここまで人気に?「美しい彼」大ヒットの要因を考察!
ビジュアルが少なく、より丁寧に心情が描かれる“小説原作”の強み
さらに「美しい彼」の原作はコミックではなく小説であることも功を奏したと言える。本作においても、ドラマシリーズにハマって原作小説に手を出した人を多く見かける。コミックの場合はビジュアルのインパクトが強いため、どうしても性愛表現を苦手に感じる方もいるだろうが、小説ではビジュアルが少ないために受け入れやすい。しかも、凪良の性愛表現は官能の度合いが高すぎず程よいので、BLビギナーもスムーズに読み進めることができるはずだ。
また、コミックに比べて心情の“行間”もしっかりと書いてあることから感情がダイレクトに伝わり、世界観にどっぷりとハマった方も多いだろう。恋愛が実って終わりではなく、その後の後日談や番外編もBLでは定番で、糖度アップしたカップルの様子が映像で楽しめるのもいい。そしてコミックに比べビジュアルイメージが強くないために、実写化された時のギャップが少ないことも挙げられる。実際に、原作では平良は清居よりも長身で、清居は華奢なイメージがあるところ、実写化ではむしろ逆だが炎上するようなこともなかった。その点も小説が原作だったおかげと言えるだろう。
萩原利久&八木勇征が起こした化学反応
ここまで語ってきたが、なんだかんだ言っても、清居役を演じた八木の絶対的な美しさは大きな勝因だ。“美しい彼”のタイトルに名前負けすることなく、説得力を持って作品を成立させ、本格的な演技経験は少ないながらも好演を果たしている。対して平良役の萩原は子役からキャリアを重ねてドラマや映画にひっぱりだこの若手俳優。作中では清居を崇拝し熱っぽい視線で見つめる、一見ストーカーちっくな危ういキャラクターを見事に演じ切った。
彼らが演じる平良と清居のキャラクターが濃いのもいい。平良はちょっとやそっとじゃビクともせず、諦観を感じさせるほど突き抜けたネガティブさを抱えている。清居は清居でカースト上位だが、実はネガティブ要素を孕んでいて拗らせている。どちらも一見対局にいるのに、実は似ている2人の共鳴に観るほうはキュンとさせられた。そして2人ともお互いを思い合っているのにすれ違い、両片思いのじれったい展開に視聴者は萌え転げることとなった。この平良と清居に萩原と八木がバチバチにハマって化学反応が起き、人気が爆発したと言えるだろう。
BLの美味しいところが詰まった「美しい彼」
さらにいうと、この両片思いのもどかしい展開も、カースト底辺と上位という属性の違う2人という設定もBL界では定番で、「美しい彼」にはBLの萌え要素がギュッと詰まっているのだ。陰キャのほうが恋愛に積極的でリア充のほうが受け身となるところや、いわゆる少女漫画では王子様的なポジションの俺様イケメンのほうが冴えない相手に振り回される構図もBLの定番で醍醐味。シーズン1で多くの視聴者を虜にした第5話にあるような、主人公から相手側に視点が切り替わるのもBLではよく登場する、みんなが大好きな手法だ。こういったBLの美味しいとこ取りができてしまう「美しい彼」が大ヒットしたのは当然のことと思える。そして、コロナ禍の巣ごもり生活でタイBLが世界的に流行ったことや、ドラマ版のシーズン1が早い段階で配信され、1話30分という短尺で見やすかったことなどもあと押しとなった。
ファン待望の劇場版ではシーズン2で展開した後日談のさらなる結末が描かれる。平良の頑固なネガティブさのために、両思いになってもなかなか心の距離が縮まらない2人はどうなってしまうのか。ドラマ版でも魅力だった美しい映像とあわせて、ぜひスクリーンで“ひらきよ”萌えを堪能してほしい。そして、これからもどんどん制作されるだろうBL系映像作品は「美しい彼」シリーズのように、“ファン向け”だけではなく、原作とファンに配慮しつつ、一つの作品として成立するクオリティの高い作品作りを目指してくれることと期待している。
文/牧島史佳