『THE FIRST SLAM DUNK』井上雄彦監督と試行錯誤した演出家が明かす、山王戦の没入感「桜木らしく見せるのもテーマ」
「見慣れたアニメーションながらも、作画が良いと思ってもらえれば成功」
CGと手描きのアニメーションを融合させているからこそ、“違和感を持たない映像”に仕上げる点でもこだわりが。それは、コマ数の調整だ。1秒間24コマで成立している映画において、一般的なアニメーションでは、3コマ同じ絵を映し、1秒間に8枚の絵で動きを表現する“3コマ打ち”と呼ばれる手法で表現されている。1秒間に24枚の絵を使う、いわゆる“フルアニメーション”では繊細な表現は可能だが、映像がヌルヌルと動きすぎて、むしろ違和感があるよう見えてしまうことも多く、作画的な手間も多いため、日本のアニメーションでは3コマ打ちが主流となっている。本作では、バスケットボールの試合での動きの見せ方を重視した結果、フルアニメーションから3コマ打ちまでポイントごとに使い分けているという。
「最終的な印象として、見慣れたアニメーションながらも、作画が良いと思ってもらえれば成功だと思っていたので、主に3コマ打ちのテンポで制作しつつ、要所要所で“1コマ打ち”(1秒間に12枚の絵で構成する方法。少し凝った動きを見せる場面で用いる)も取り入れています。複雑なカットも有って、カメラの動きとキャラクターの動きが上手くかみ合わない場合は、2コマ打ちでもちょっとしたズレが生じることがあるので、そこはフルアニメーションで描きつつも、ヌルヌル動いて見えないような工夫もしています。井上監督にもフルアニメーションだとヌルっとした感じに見えるということは最初に提示して、その後コマ数調整したものを見ていただき、『ここはどれでいきますか?』と選択していただいて、そこに近づけるようにやっています」。
「従来とは異なる特殊なやり方が、本作はすごくマッチしていました」
こうしたアニメーションとしての新たな試みがなされているのは、井上監督のビジョンに沿った結果生まれたものでもあった。「元々は原作のイメージを映像として再現できればというのがスタートだったので、原作の絵に近いカメラ位置を設定して画作りをしていきました。それを並べて監督に提示すると、『ここは1カットで長回しで見せたら効果的だよね』とか『ここはもうちょっとカットを切ろうか』、『ここにプレーに対するリアクションを入れたいね』とか、テンポ感や流れに関する指示をひとつひとつやっていただいて。最初に絵コンテを作って、その通りに並べるという従来とは異なる特殊なやり方が、本作はすごくマッチしていたと思います」。
また、作品の仕上がりを決める「編集」に関しても、通常とは違った段取りで行われている。従来のアニメーションであれば、絵コンテの段階でシーン構成やカット繋ぎの編集的な要素は出来上がっているため、描いた絵が編集でカットされない形で進行することが多い。しかし、本作では試合のスピードやテンポ感、没入感などを重視すべく、特殊な編集作業が行われている。
「絵コンテに沿った形で音声収録前に編集を行うというのがほとんどのアニメの常識だったりしますが、本作では、イメージボードのラフが揃った時点で1回、そこから作業を進めて1年置いてからもう1回、さらに絵が揃ってきたところで1回と、ポイントごとに何度も編集を行いました。この作業は、井上監督も自分の主観だけではなく、別の人の感覚で1回繋ぐとどうなるのか見てみたいという思いもあって、瀧田隆一さんという実写作品の経験豊富な編集さんと2人で作業をされています。普通のアニメーション作品では、絵コンテに合わせて音響作業もされるので、カットを入れ替えはあまり行わないのですが、本作はフレキシブルにカットの入れ替えなどもしているので、映像的なこだわりはできました。」。