『THE FIRST SLAM DUNK』井上雄彦監督と試行錯誤した演出家が明かす、山王戦の没入感「桜木らしく見せるのもテーマ」
「映像のテーマは“カメラで撮ったものを繋いでいく”こと」
本作の試合シーンで大きな見所となるのは、クライマックスとなる試合終了間際の展開だろう。原作では、残り20秒間に没入できるようセリフを廃して描かれているが、映像という時間経過を感じられる手法ではどう表現するか。そこにも大きなチャレンジがあった。
「無音パートと呼ばれるあの一連のシーンは、スペシャルな画面作りに定評のある別の演出さんに担当していただきました。緊張感をいろんな手法を使いながら映像に再現することができるんですよ。残り時間の緊張感を出すように、最後の最後までカットの並べ替えをしたり、スローの持ち方を調整したりと、井上監督とやり取りをしながら仕上げていました。一方で、クライマックスの映像演出が特殊になることは前提としてあったので、前半はなるべくオーソドックスにカットを積もうというのはみんなで共通認識として持っていました」。
パートごとに演出の手法が違いながらも、大きな差が出ることなく、実写の映画を観たような感覚になる仕上がり。本作では、こうした連携が作品としてのしっかりとした統一感をもたらしている。「例えば、僕のパートで行った演出的な見せ方で、スローになる時は画面全体を暗めにライティングを落として、視界が狭まって息がつまるような見せ方を前振りとして使っています。クライマックスではそれが生きるように見せるやり方をしていて、演出方法でのそうした連携はしっかりと取れていたと思います」。
「また、いわゆる手描きのアニメだと、イメージっぽい背景を一枚置くことで、記号としての緊張感を出せたりするんですが、今回は“カメラで撮ったものを繋いでいく”というテーマで映像を作っているんです。その結果、記号的な表現ではなく、しっかりと抑えることができたのではないかと思います。『THE FIRST SLAM DUNK』に関わった僕ら演出陣は、バスケットボールに精通したアニメーターだったり、演出がいれば、作画アニメーションでキャリアを積んだ演出もいる。そうした人たちが井上監督という大きな幹の周りで、それぞれの得意パートの演出技法を活かした枝を伸ばして作っていくというやり方をしていった。それが、今回のチームのイメージだと思います」。
「『THE FIRST SLAM DUNK』はアトラクションのような映画」
こうした作業を経て作品が組み上がっていくなかで、宮原は自身が手掛けたシーンで印象に残っているのは、桜木花道の描き方だという。
「桜木というキャラクターは、リアルなバスケット描写のなかで、一人だけアニメーション的な誇張した動きをするんです。アニメと実写のちょうど中間に立っているような。彼の動きを映画のなかでしっかりとした存在感を出しつつも、映像のトーンに合った説得力を持たせなければならない。その結果、アニメーターさんもどこまで派手に動かしていいのかとか、ジャンプも人が跳べないような域までちょっとだけ高くしてみるとか、そういうところで工夫や試行錯誤はしています。桜木を桜木らしく見せるのもひとつのテーマとして、アニメーターさんには骨を折っていただいた感じはあります。なかでも、ボールを追いかけて机に突っ込むシーンは、優秀なアニメーターの方が手掛けていますが、それでもかなり微妙な調整をお願いして、相当なテイク数を重ねましたが迫力あるカットに仕上げていただきました」。
最後に、井上監督やスタッフと試行錯誤を繰り返し制作した『THE FIRST SLAM DUNK』がどのような作品なのか聞くと、宮原は「アトラクションのような映画」と笑顔で答える。「試合の興奮を味わいに映画館に行く、アトラクションのような映画というのもひとつありなのではないかと思いますね。ジェットコースターのように繰り返し乗っていただければ、より楽しめる部分があると思いますので。ぜひ何度でも味わっていただきたいです」。
取材・文/石井誠