“能”と“霧”がテーマを深化させる…藤井道人×横浜流星『ヴィレッジ』を深く味わうためのキーワード

コラム

“能”と“霧”がテーマを深化させる…藤井道人×横浜流星『ヴィレッジ』を深く味わうためのキーワード

『新聞記者』(19)や『余命10年』(22)など数々の話題作を手掛ける藤井道人監督の最新作『ヴィレッジ』(4月21日公開)。“村”という閉ざされた世界を舞台に、どこにも居場所を見つけられずに生きてきた青年が運命に抗い、負のスパイラルから抜け出そうとする姿を描いた本作には、現代日本が抱える“闇”が投影されている。そこで本稿では、鑑賞前に知っておきたい本作の重要な2大テーマを紹介したい。

“村”という閉ざされた世界を舞台に、負のスパイラルから抜け出そうとする青年を描く
“村”という閉ざされた世界を舞台に、負のスパイラルから抜け出そうとする青年を描く[c]2023「ヴィレッジ」製作委員会

物語の舞台は夜霧が幻想的な集落、霞門村。神秘的な「薪能」の儀式が行われている近くの山には巨大なゴミの最終処分場がそびえ立ち、この施設で働く片山優(横浜流星)は母親が抱えた借金の支払いに追われながら希望のない日々を送っていた。かつて父親がこの村で起こした事件の汚名を背負い、人生の選択肢などなかった優。そんなある日、幼なじみの美咲(黒木華)が東京から戻ったことをきっかけに、彼の物語は大きく動きだすことに。

藤井道人監督の新たな挑戦!物語を支える“能”の力

本作の舞台となる霞門村には、古くから行われてきた神秘的な「薪能」が伝わっている。幼い頃から“能”に親しみ、その伝統を受け継いできた優や美咲たち。劇中には、面をつけて松明を持つ村人が村のなかを練り歩くという印象的な描写も描かれている他、“能”を用いた多くのメタファーが散りばめられている。そしてなにより、この物語そのものが「邯鄲」という演目に大きくインスパイアされている。


霞門村に伝わる「薪能」の演目が、主人公たちのストーリーと重なり合う
霞門村に伝わる「薪能」の演目が、主人公たちのストーリーと重なり合う[c]2023「ヴィレッジ」製作委員会

“能”を描くことは、本作の企画・製作・エグゼクティブプロデューサーを務め、昨年6月に亡くなった河村光庸プロデューサーからの宿題だったという。「“お面をかぶった人々の行列”は、いまの日本人の間にはびこる同調圧力や事なかれ主義に一石を投じたいという河村さんの想いがあったと思います」と藤井監督は明かす。「コロナを経て、エンタテインメントは世のなかに必要なのかという問いに対し、自分たちなりのアンサーを返そうとした時に、河村さんは日本最古の芸能である能を用いてきました。物語の核になる『邯鄲』の演目が決まってから、脚本の輪郭も固まっていきました」。

そして藤井作品の常連スタッフであるヘアメイクの橋本申二が、かねてより親交のあった能楽師の塩津圭介を藤井監督に紹介。塩津は劇中の演目選びから所作指導、監修、出演まで全面的に協力し、本作の実現に貢献。また劇中にはもう一つ、「羽衣」という演目が登場する。「邯鄲」が優のストーリーであるならば、「羽衣」は美咲に託されたストーリー。「羽衣」における地上と天井は、「邯鄲」における現実と夢とオーバーラップする伏線にもなっている。

【写真を見る】横浜流星が日本の伝統芸能“能”を舞う!亡き名プロデューサーの遺志を受け継いだ作品に込められた様々な想いとは
【写真を見る】横浜流星が日本の伝統芸能“能”を舞う!亡き名プロデューサーの遺志を受け継いだ作品に込められた様々な想いとは[c]2023「ヴィレッジ」製作委員会

「能というのはあくまでも型。どう解釈するかは受け取る側に委ねられている」と塩津が語るように、答えを出さないのが能のあり方。藤井監督はそれを「映画にとっての“余白”に近いと思った。すべてを説明するのではなく、余白で語る表現に挑戦してみたい思いがありました。これまで自分がやってきた演出よりもさらにレベルの高いことだったので苦しかったけれど、能の力を借りることで、新しい試みができたと思います」と振り返った。

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