“能”と“霧”がテーマを深化させる…藤井道人×横浜流星『ヴィレッジ』を深く味わうためのキーワード

コラム

“能”と“霧”がテーマを深化させる…藤井道人×横浜流星『ヴィレッジ』を深く味わうためのキーワード

幻想的にただよう“霧”が、人々のリアルを切り取る

かやぶき屋根が印象的な霞門村の全景は、京都府中部に位置する集落「かやぶきの里」のロケーション。そこにただよう“霧”こそ、本作のビジュアル的なテーマである。流動的に形を変える“霧”のイメージは、もう一つのテーマである能との出会いから見えてきたのだと藤井監督は明かす。

「誰も本当のことを知ろうとも、本当の人を見ようともしない」
「誰も本当のことを知ろうとも、本当の人を見ようともしない」[c]2023「ヴィレッジ」製作委員会


「輪郭のくっきりしていないものにしたかったんです。一口に村社会と言っても、村を批判しながら自分もその一員になっていたり、もっと定義が曖昧なコミュニティのはずなんですよね。誰も本当のことを知ろうとも、本当の人を見ようともしない。そのもやがかったところに、フラストレーションが爆発して火が起こる…。脚本を書いている時に頭のなかでUnderworldの『Beautiful Burnout』が鳴っていて、もやと火を一つの対比構造として描きたいという思いがありました」。

また、“霧”は本作のポスタービジュアルなどにも用いられており、劇中でも幻想的な映像美を作りだすために重要な役割を担っている。「誰か一人が悪者ではないというところを描きたかった。観終わってわからないことがあっても、わかることがすべてではないと伝えたいし、人や物事を断定してわかったような気になっていることが一番怖い。目の前で表現されているものが自分の写し鏡であるという原点に帰れた映画かなと思います」と、藤井監督は白か黒か、善か悪かだけでは図りきれない“いま”を生きる人々のリアルを切り取った本作への想いを語った。

霧がかかったビジュアルが、現代社会の曖昧さを表現
霧がかかったビジュアルが、現代社会の曖昧さを表現[c]2023「ヴィレッジ」製作委員会

本作が遺作の一つであり、最後にクランクアップを見届けた河村プロデューサーは「このテーマは、あなたとあなたの周りに起きている物語なのである。この映画は藤井監督と制作したかつての2作品(『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』)とはまた違う人間集団のディープな物語になったと思います」とコメントを遺している。

現在、公式YouTubeでは、連載で映画公開までの700日の人間ドラマを追った「700日のヴィレッジ」最新映像vol.4「INSPIRE」も公開中。vol.4では本記事でも取り上げた“能”と“霧”のテーマについて、横浜、黒木、中村らが託された想いを明かしている。次回のvol.5は「SWIPE:暮れる陽を止めろ」というタイトルになっているが、この回では一体なにがフォーカスされるのか?公開へ向けて、「700日のヴィレッジ」で続々と明かされる制作秘話にも注目だ。

河村プロデュ ーサーの遺志と遺伝子を受け継ぎ、その想いを託された藤井監督が描ききった人々のリアル。“能”と“霧”という2つのテーマに注目しながら、その世界観を劇場で堪能してほしい。

文/久保田 和馬

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