11度も映像化された「犬神家の一族」の魅力とは?市川崑・石坂浩二版から、金田一耕助が“登場しない”作品まで
4月22日(土)、29日(土)にNHK BSプレミアム&BS4Kで前後編が放送される、横溝正史原作のミステリー【特集ドラマ】「犬神家の一族」。BSプレミアムでの長編「金田一耕助」シリーズとしては第4弾、吉岡秀隆が金田一を演じた作品では3作目になる。その放送に向けて、現在に至る“金田一耕助像”の原点となった1976年の映画『犬神家の一族』を中心に、映像化された作品群の魅力を再検証する。
莫大な遺産を巡って発生した連続殺人事件に、金田一耕助が挑む!
映画『犬神家の一族』は1976年10月16日にロードショーされ(日比谷映画劇場にて先行上映)、翌月から全国公開された。当時角川書店の社長だった角川春樹が、角川春樹事務所を立ち上げて映画製作に乗りだし、映像と出版をメディアミックスさせた角川映画の第1弾としても話題を集めた。興行的にも13億200万円の配収(現在の興収で計算すると約2倍の数字)を記録し、この年公開の日本映画では第2位の大ヒット作になっている。
ストーリーをおさらいすると、昭和20年代の初頭に信州の財閥の創始者である犬神佐兵衛が亡くなり、その遺言状が血縁者一同立会いのもと、公開されることになる。その遺言状を巡って、事件が起こることを予期した古舘弁護士事務所の所員である若林は、私立探偵の金田一耕助を呼び寄せる。だが若林は毒殺され、新たに古舘弁護士に仕事を依頼された金田一は、遺言状公開の場に立ち会う。遺言状には、佐兵衛の3人の孫である佐清、佐武、佐智のいずれかと結婚することを条件に、佐兵衛の恩人の孫、野々宮珠世に全財産が譲られることが記されていた。やがて佐武、佐智が次々に殺され、金田一は連続殺人事件の謎に迫っていく。
市川崑が描く、ショッキングな描写と散りばめられたユーモアとのバランス
市川崑監督は、菊人形の首と挿げ替えられた佐武の首、透明な天窓のガラスから苦悶の形相で見つめる佐智の死体など、ショッキングなシーンを散りばめて殺人事件を表現。なかでも印象的なのが湖面から2本の足が突き出た佐清の死体で、以降に作られた「犬神家の一族」の映像化作品でも、この足が突きでた死体は作品を象徴するビジュアルになった。また、戦地で負った傷を隠すため顔に白いマスクを被った佐清は、遺言状公開の場で佐武たちからその正体を疑われる。ここで佐清がマスクを下からめくり上げ、焼けただれた顔が少し見えるシーンも、後続作品に必ず出てくる定番の名場面となった。
凄惨な殺人が起こる一方で、市川監督は作品にユーモアを持ち込んだ。早とちりして、「よし、わかった」と言いながら見当違いの推理ばかりする加藤武の橘警察署長、金田一に調べものを頼まれ、そのお礼に食堂で金田一にごちそうになるが、彼が質問ばかりするのでゆっくり食事ができなくてむくれる、「那須ホテル」の女中はる(坂口良子)など。いつも飄々としている金田一を含めてちょっとした脇役までキャラが立ち、ミステリーとして筋を追うこと以外にも、各々の人物像を観ているだけでも楽しい、キャラクタードラマとして一級品。このショックと笑いの緩急を織り交ぜたバランス感覚が、やはり巨匠、市川監督ならではの演出力である。
また、この映画版は金田一役の石坂をはじめ、犬神佐兵衛に三國連太郎、佐清の母である松子に高峰三枝子、野々宮珠世に島田陽子、佐清にあおい輝彦とオールスターキャストをそろえて、見た目にも豪華な作品に仕上がっている。この映画の大ヒットによって、市川監督は以後も、『悪魔の手毬唄』(77)、『獄門島』(77)、『女王蜂』(78)、『病院坂の首縊りの家』(79)を立て続けに発表。さらに豊川悦司を金田一役に起用して『八つ墓村』(96)も監督し、2006年には『犬神家の一族』を石坂主演で自らリメイクした。