泣けるけど笑える“親バカあるある”満載!?文学YouTuberベルは父親目線で宮沢賢治を描いた『銀河鉄道の父』をどう観た?
「映画を観ると改めて、日本語で宮沢賢治作品を読めることのすばらしさを再確認できる気がする」
宮沢賢治文学の魅力についてベルは「まずはリズム感がすごくいいです。『クラムボンはかぷかぷわらったよ』というフレーズはみんなで言い合っていました」と、小学生時代に教科書で掲載されていた「やまなし」を例に挙げる。
「短編が多いし、ファンタジーの要素もあり、浸透しやすかったのかなと。でも、話としてすごくわかりやすいかといえばそうでもないし、 勧善懲悪なものでもない。宇宙や自然に独特の宗教観が合わさり、ただの児童文学というくくりでは収まらない感じです。私は今回原作を読んだ時、『雨ニモマケズ』のくだりで涙した自分にも驚きました。この詩は東日本大震災の時にたくさんの人に検索されたそうですが、何度読んでも、またどの年代が読んでも、新しい読み方ができます。賢治が書いたものは時代を超えていくし、いろんな機会に手に取りたい作品なのかなと思います」。
本作を通して、宮沢賢治についてもいろいろな発見があったというベル。
「宮沢賢治といえば教科書でのイメージが強いし、人となりについても、農業の人とか、自己犠牲の精神や宗教観など、断片的なキーワードをつないだ肩書きくらいしか知らない人が多いと思いますが、本作に登場する賢治はちゃんと生き生きしています。そこは作者の愛情や解釈によるものが大きいとは思いますが、その背景や属性がすごく丁寧に描かれているので、作品についても、『なるほど、賢治はこういう目線で書いていたのか』と気づき、その解釈も少し変わったかなと思います」。
宮沢賢治の作品群が随所に散りばめられた本作。ベルは映画ならではのハイライトとして、「銀河鉄道の夜」をフィーチャーしたファンタジーあふれるオリジナルの名シーンがとても感慨深かったと言う。
「賢治とトシによる『銀河鉄道の夜』の朗読と重なって、そこからジョバンニとカンパネルラのいる世界観が繰り広げられます。そこへ政次郎もやってくるというシーンが私はかなり気に入りました。ジョバンニとカンパネルラは、賢治とトシがモデルなっていると言われているので、そういう作品の世界が映像に反映されていました」。
同シーンこそ映画ならではの醍醐味だったと言うベル。「この映画は自伝的で、大河ドラマのような要素があり、宮沢賢治の作品を直接映像化するものではないけど、やはり原作を読んだり映画を観たりした人は、結局のところ、宮沢賢治という人は後世になにを残したのだろうという点がとても気になるはず。そういう賢治が残した作品の世界もちゃんと見せてくれたことが本当によかったなと思いました」。
さらに、「賢治はトシのために作品を書き、作家として覚醒していきます。賢治は、自分は子どもの代わりに物語を生んだと言っていますが、 その作品は死後も生き続けていきます。それらは全部つながっていて、すべてを見てきたのが政次郎で、映画ではその視線が描かれていくわけです。『一番の親不幸は、子どもが先に死ぬこと』なんて言いますが、ちゃんと作品は残っていくことがわかり、それを政次郎が見届けた感じがして鑑賞後は救われた気持ちがしました」と宮沢賢治が残したものについてしみじみ語る。
最後に、これから本作を観る人に向けてもメッセージをもらった。
「宮沢賢治とその家族が描かれた本作では、そんなふうに背景に賢治の作品も挟まれていますが、映画を観ると改めて、日本語で宮沢賢治作品を読めることのすばらしさを再確認できる気がします。劇中で朗読のシーンも描かれているし、政次郎目線から見た新たな賢治像も見せてもらえます。また、本作はあくまでも普遍的な親子関係を描いた作品なので、父、母、息子、娘などいろいろな登場人物に感情移入できるのではないかと。それぞれに不器用だけど、すごく愛を持っているので、どの目線で観ても楽しんでもらえると思います」。
取材・文/山崎伸子
読書の魅力を発信する動画クリエイター。YouTubeチャンネルの登録者は17万人超え。「気軽に読書を楽しめる仲間を増やしたい」という思いで活動中。書評動画をはじめ、作家対談や本にまつわる解説も行う。YouTubeとリアル書店のコラボ「ベル書店」では本棚をプロデュース。
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