忠実に再現された小物から大胆な脚色まで…驚きとユーモアと家族愛が詰まった『銀河鉄道の父』で宮沢賢治を再発見!
初版本、曼陀羅、トランクなど賢治の愛用品を忠実に再現!
本作では、賢治が生きた世界を再現するため、生前に手掛けた童話の初版本から宮沢家の小物にいたるまで、時代考証とリサーチを重ねて忠実に再現された。
賢治の曼陀羅やトランク、手帳は宮沢賢治博物館に出向いてサイズや色まで再現。賢治の手書き原稿は独特の字体のクセまで似せるようスタッフみんなで徹夜で作業して準備した。賢治は生前、詩集「春と修羅」を自費出版し、童話「注文の多い料理店」を刊行しているが、それらが大量に積まれたシーンを撮影するために印刷して書籍も作成。入手困難な「宮沢賢治全集」は、博物館にあるものをコピーして使用している。
また、賢治が誕生する明治29年から賢治の没後2年が経過した昭和10年までが舞台となる本作では、古い街並みを求めて日本各地を調査した末、岐阜県恵那市に残る商家造りの建物をもとに政次郎が営む質屋と古着屋および住居を再現。さらに病気のトシの療養場所となり、後に賢治が農民たちに近代的な農業を教える「羅須地人協会」の拠点とした宮沢家別宅「桜の家」は、外観を花巻で撮影し、内部を岐阜県白川町の体育館にセットを建て込むことに。
そして物語の見どころの1つとなるのがトシとの死別のシーンだ。瀕死のトシの最期の願いを叶えるために賢治は庭の樹木に積もったみぞれをそっと茶碗にすくいとるのだが、「あめゆじゅとてちてけんじゃ」で知られる詩「永訣の朝」にもかかれているジュンサイ模様の茶碗を再現するため、デザインをおこし陶芸家に制作してもらうなど徹底した準備が行われたのだという。
こうして史実に基づきトシの死が忠実に描かれる一方、37歳で早逝した賢治の死は事実と離れ、映画オリジナルで描かれた。ここでは詳細を述べるのを控えるが、何があっても賢治を信じ、味方であり続けた政次郎の想いがほとばしる印象的なシーンに心揺さぶられるとともに、宮沢家の揺るぎない家族愛にこみあげてくるものがきっとあるはずだ。
今年、2023年は宮沢賢治の没後90年となる。文豪、宮沢賢治の魅力を再発見できる『銀河鉄道の父』が描くユーモアと家族愛に、笑って、泣いて、そして希望を感じてほしい。
文/足立美由紀