AppleTV+オリジナル映画をパラマウントが世界配給。ハリウッドにおける映画スタジオとストリーミングの関係はどう変化する?
同じように、ソニー・ピクチャーズはAppleオリジナル映画の『Napoleon』を劇場で独占公開する。シネマコン初日に登壇したソニー・ピクチャーズ映画グループ社長のジョシュ・グリーンスタイン氏は、ハリウッド5大スタジオの中で唯一、ストリーミングサービスを系列企業に持っていないことを強調。「ちょうど2年前、パンデミックの渦中には、劇場公開映画の終焉が囁かれ、誰もがストリーミングこそが未来だと宣言していました。しかし、私たちソニー・ピクチャーズは、そのような状況下でも劇場と手を組み、決して揺らぐことのない協力体制を示しました。当時、劇場公開期間を短縮する実験をしたほかのスタジオは、いまになって方針を転換し、劇場公開の価値を実感しています。一部のストリーミングサービスは、一部作品を劇場で独占上映するようになりました。ああ、時代は変わったんだなあ、と思います」と挨拶し、会場を埋めた劇場主やメディアの喝采を浴びた。
そして、グリーンスタイン氏はプレゼンテーションの大トリを、リドリー・スコット監督、ホアキン・フェニックス主演の歴史大作『Napoleon』の紹介で締めた。「ソニーにとって、そして特に劇場主のみなさまにとって、非常に重要なことなので最後にお伝えいたします。エディ・キュー(Apple サービス担当副社長)と、私の古い友人であるザック・ヴァン・アンバーグ、ジェイミー・アーリックの聡明な指導のもと、Appleオリジナル映画は、複数のトップ映画監督やスターを起用して、非常に輝かしいラインナップを揃えています。私は、ザックとジェイミーが作ってきたすばらしい映画の数々に、実はかなり嫉妬していました。『Napoleon』は、Apple TV+に移行する前に、強力な劇場配給体制と完璧なマーケティングキャンペーンを用いて、11月末に世界的に劇場配給する予定です。私たちは、みなさまがこの映画を最大限にサポートしてくださると信じています。なぜなら、今作の重要性は明らかだからです」。アンバーグとアーリックの二人は、以前ソニー・ピクチャーズでグリーンスタイン氏のもとで映画を作ってきた仲間だった。Apple TV+立ち上げの際に移籍し、2021年のサンダンス映画祭で配給・配信権を獲得した『コーダ あいのうた』でアカデミー賞作品賞を受賞している。
Amazonプライム・ビデオも、Apple TV+と似たような劇場配給戦略を取り始めた。Amazonが2022年にMGMを買収したことにより、同社作品を米国内ではユナイテッド・アーティスツ、海外市場はワーナー・ブラザースが劇場配給を行う契約を交わしている。今年4月には、ベン・アフレックとマット・デイモンの新製作会社アーティスツ・エクイティによるNike エア誕生物語『AIR/エア』の独占劇場配給を行った。シネマコンにおいてワーナー・ブラザースのプレゼンテーションでも、「MGM作品の海外配給を担当できることを大変誇りに思っています。この契約のもと、私たちは最近、『クリード 過去の逆襲』の配給を行い、国内興行収入で約1億1500万ドル(約155億円)、全世界で2億7000万ドル(約363億円)以上を計上し、現在も興行成績は積み上がっています。さらに、Amazon プライム・ビデオの『AIR』の全世界配給を行い、作品は大絶賛を受けています。今作は現在も公開中であり(4月25日当時)、非常に長い成功が期待されています」と、国内劇場配給担当社長のジェフ・ゴールドスタイン氏が述べている。『AIR/エア』の現在までの興行収入は、全世界で8526万ドル(約115億円)となっている。なお、劇場公開時にはAmazonプライム・ビデオでの配信日は明かされていなかったが、5月12日より配信が開始されている。
ストリーミング企業とスタジオの提携は、目玉作品をサービス加入の動機付けに使うのではなく、映画を「餅は餅屋」のやり方で宣伝・マーケティングを行い劇場でのヒットに導き、副次的にストリーミング加入者を増やすという算段だと言われている。ストリーミングは映画の未来なのか?2010年代以降ずっと問われてきた問題にある種の答えが出たのが、各ストリーミング企業の2022年の契約者数減、株価暴落だった。一方で、製作費の高騰や生活習慣の変化で、映画スタジオは以前のような製作配給体制では立ち行かなくなっていた。ストリーミングの製作費を武器にすれば、劇場配給だけでは損益分岐点に達しないアート系映画も公開することができる。双方の目的と利点が合致した劇場配給提携なのだと言えそうだ。Appleとパラマウント、ソニー・ピクチャーズ、そしてAmazon プライム・ビデオとワーナー・ブラザースによる劇場配給提携は、ストリーミングと劇場興行の双方を救うことができるだろうか。
文/平井伊都子