あの大ヒットゲームの知られざる開発秘話とは?Apple TV+にて配信中『テトリス』の見どころを紹介|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
あの大ヒットゲームの知られざる開発秘話とは?Apple TV+にて配信中『テトリス』の見どころを紹介

コラム

あの大ヒットゲームの知られざる開発秘話とは?Apple TV+にて配信中『テトリス』の見どころを紹介

人気ゲーム「テトリス」が世界中でヒットするまでに、こんな壮大な秘話があったとは…! タロン・エガートンが「テトリス」の権利をめぐり冷戦化の旧ソ連で奔走するApple TV+オリジナル映画『テトリス』が、3月31日より配信開始され、話題となっている。

Apple TV+にて配信中のドラマ『テトリス』
Apple TV+にて配信中のドラマ『テトリス』[c]2023 Apple Inc. All rights reserved.

1988年、旧ソ連のコンピュータ技術者アレクセイ・パジトノフ(ニキータ・エフレーモフ)が考案した「テトリス」にビジネスの閃きを感じたヘンク・ロジャース(タロン・エガートン)は、モスクワに飛び権利を取得しようとする。アレクセイとヘンクはこのゲームを世界中の大衆に広めるために協働するが、ソ連当局やKGB将校、アメリカのビジネスマンやイギリスのメディア王など冷戦下の東西陣営が入り混じった利権戦争が勃発する。

ヘンクとアレクセイはビジネスチャンスを懸け、ソビエト連邦へ渡る
ヘンクとアレクセイはビジネスチャンスを懸け、ソビエト連邦へ渡る[c]2023 Apple Inc. All rights reserved.

この奇妙な実話に最初に興味を示したのは、プロデューサーを務めたマシュー・ヴォーン。まさにゲームボーイ世代で、子どものころに「テトリス」で遊んだ思い出と共に1980年代の風景も蘇ってきたという。「キングスマン」シリーズや『ロケットマン』(19)ですでにタロン・エガートンとすでに信頼関係を築いていたヴォーンは、オランダ生まれ、NY育ちで日本に暮らし、ソ連やイギリス、アメリカの屈強な“敵”と孤軍奮闘するビジネスマン、ヘンク役にエガートンを配した。ヴォーンは、「タロンは私にとって相棒のような存在で、必ずしも品行方正ではないキャラクターを演じながらも、観客はなぜか彼の肩を持ってしまうような、真の映画スターとしての資質があります」と、エガートンに絶大な信用を寄せる。

 ヘンク・ロジャースを演じるのはタロン・エガートン
ヘンク・ロジャースを演じるのはタロン・エガートン[c]2023 Apple Inc. All rights reserved.

ヘンク役をオファーされると、エガートンは「1999年11月10日にゲームボーイカラーを買って、『テトリス』をプレイしたのを覚えています。『ポケットモンスター 青バージョン』が入ったセットを買ったら『テトリス』も入っていて、やめられなくなってしまった。でも、『テトリス』がゲームボーイに入った経緯は知りませんでした」と懐かしい思い出に浸ったという。撮影のほとんどはスコットランドで行われたため、ヘンクと妻あけみ(文音)の会社ブレットプルーフ・ソフトウェアも彼らの住居も、セットで撮影されている。「美術監督のダニエル・テイラーのセットが実に見事で、生活感と個性があります。照明監督が素晴らしいライトを作ってくれ、日本を舞台にしたシーンのテーマとなるような温かみのある赤い照明が中心になりました。画面でとても栄えるんです。豪華に仕上がるシーンの撮影は、とても満足感が得られました」と、日本のシーンの完成度に自信のほどをうかがわせる。

 『テトリス』のメイキング風景
『テトリス』のメイキング風景[c]2023 Apple Inc. All rights reserved.

ジョン・S・ベアード監督は、この映画で「英国の映画作家による日本の解釈」を楽しんでもらいたいと言う。ヘンク本人や彼の家族から多くの助言を得て、「部外者の目を通した日本文化の解釈を楽しんでもらえると思います。また、日本人とソ連の人々、上品な英国人や生意気な米国人などの対比もおもしろいでしょう」と語っている。スコットランドに日本のセットを作り上げることは、80年代のモスクワを作るよりも数段難航したという。ロケーションは、ベアード監督の出身地であるアバディーンでも行われた。「幸運なことに、アバディーンの石油会社のビルが、昔の任天堂本社にそっくりだったんです。でもその他の屋外のシーンは、建築様式があまりにも違いすぎるので、似せることすら難しかった。そこで、8ビットのコンピュータグラフィックを用いて、東京の街並みを描きました。同じ手法をロンドンやシアトルの外観にも転用しました。つまり、行き詰まったときの最後の手段で東京のヘンクの自宅の外観を8ビットで描いたんですが、それが作品全体を通した手法になったんです。東京にとても感謝しています」。こうして、80年代の電子音を活かした音楽と、8ビットの街並みが混じるユニークな作品に仕上がった。

 【写真を見る】ゲーム好きにはたまらない?懐かしい80年代の雰囲気とスリリングな展開が観客を魅了する『テトリス』
【写真を見る】ゲーム好きにはたまらない?懐かしい80年代の雰囲気とスリリングな展開が観客を魅了する『テトリス』[c]2023 Apple Inc. All rights reserved.

『テトリス』は、80年代を代表するポップカルチャーが生まれた驚愕の背景を知る映画でもあるが、やがて世界を虜にするゲームの誕生に魅せられた二人のオタクが、国境を超えて友情を育む物語でもある。マシュー・ヴォーンは特にその部分に心を動かされたそうだ。まるで、映画を作るためならどんなことでもした若かりしころを思い出して。「ヘンクは自分のようでした。90年代初め、あらゆるルールを破って脚本を持って走り回っていたんです。当時、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(88)を成立させるために、ガイ・リッチーと一緒にあらゆるクレイジーなことをやったものです。ガイはアレクセイ、私はヘンクで、世界を急激に変化させるためにクレイジーな旅に出たのです」。


脚本を書いたノア・ピンクもヴォーンの意見に賛同する。「ソ連からゲームの権利を取得するために奔走する彼らの姿は、ハリウッドの若手脚本家や映画作家と同じです。最初から、この物語の最も重要なテーマは、全く異なる世界から来て、全く異なる性格をもつこの2人の友情になるだろうと思っていました。脚本を書くために実際に会ったアレクセイはまるで詩人のような思慮深い人物で、大袈裟で野心家のヘンクとは対照的な、とても興味深い“変わったコンビ”が誕生しました」。

ヘンクとアレクセイの“味わい深い”コンビにも注目
ヘンクとアレクセイの“味わい深い”コンビにも注目[c]2023 Apple Inc. All rights reserved.

日本人にもとても馴染み深い「テトリス」の開発秘話には、まるで映画のような陰謀や欺瞞が渦巻く。常識の通じない相手に対しても決して怯まないヘンクをカリスマと身体能力で演じるタロン・エガートン、そして8ビットの街並みで繰り広げられるカー・アクションを存分に楽しんでほしい。映画を観たあとはきっと「テトリス」をプレイしたくなるだろうけれど…。

構成・文/平井伊都子

関連作品