荻上直子監督「ネガティブな感情を全部出した」『波紋』試写会トークで本音を吐露
「生きていれば普通に災難が降りかかっている気がする」
主人公に父親の介護を押しつけ失踪するも、突然戻ってくる夫への復讐として登場する歯ブラシのシーンについては「Googleで”夫スペース仕返し”や”夫スペース復讐”と検索すると、上のほうに出てくるのが歯ブラシを使った復讐でした(笑)。先日の試写会では私と同年代の方も多く、大爆笑していたので『みんなやっているんだ』と確信しました。“復讐あるある”なのかなって。男性はすぐに歯ブラシを買い替えたほうがいいです」と荻上監督が豪快に笑い飛ばすと、会場のあちこちからも笑い声が漏れていた。
枯山水の話をするシーンについては「ない水をあるように表現しているのが枯山水。この作品は水をテーマにしているので、プールのシーンや新興宗教の水などともつながっています」と説明。また、現在ニュースで取り上げられている社会問題がたくさん盛り込まれていることについては「脚本を書いたのは3年前。撮影がスタートしたのは脚本を書き終えてから2年後でした。作品を仕上げているなかで、(世の中では)宗教の問題が浮き彫りになったりして、時代が私に追いついて来たような気がします」とニヤリ。社会問題をてんこ盛りにしたのは狙いではなく、登場人物それぞれの人生を描いていく上で自然にそうなったとし、「3.11やコロナ、老老介護などは普通にあること、ドラマティックなことではありません。生きていれば普通に災難が降りかかっている気がします」と見解を述べた。
プールのシーンは『かもめ食堂』にも登場。荻上監督にとって「泳ぐことに特別な意味があるのか?」という質問に「好きなんでしょうね、きっと」と回答。「周りに人がいても、夢中で泳ぐと一人になれます。泳ぐのが好きだし、水中で音が変わるから私も歌っている気がします。また同じネタを使っちゃいましたね(笑)。よくあるんです、繰り返しやっちゃうことって。気をつけます」と苦笑いする場面もあった。
これまでの荻上監督作品とはガラリと違う印象を受ける本作。「『かもめ食堂』以来、私のことをすごくいい人とか、料理がとても上手な人と思ってくださる人が多くて。でも、それは本当に勘違いで(笑)。料理は大嫌いだし、できる限り誰かにやってもらいたいと思っています。友達もいないし、意地悪だし、嫌いな人もいるし、20年くらい前の出来事もずっと引きずったりもします。そういうネガティブな感情を全部出してみたくて。歯ブラシのシーンしかり、撮影中もすごく楽しくて、自分はこんなにも意地悪を楽しんでいるんだと思ったら、もっと邪悪なものを作りたいと思うようになりました。次はもっと意地悪なものを作りたいです」と話したあとで、「でも、そうなったらお客さんいなくなるかな?」と口にしつつも、笑える映画を作り上げたことに満足の様子。さらに「映画は意味をつけ出すとおもしろくなくなります。皆さんの解釈で受け取ってください!」と呼びかけてイベントを締めくくった。
取材・文/タナカシノブ