「不思議な爽快感」「自分にもありそうで笑えた」「ホラー並に怖い」“わかりみ”たっぷりの絶望エンタテインメント『波紋』を観てみた!
依子が経験する日常の些細な出来事にシンパシーを覚える?
なんとか日々を平穏にやり過ごそうと努めてきた依子だが、東日本大震災に関する放射能のニュースを見たあとに行方をくらましていた夫が、突如として玄関先に現れる。ガンを患っており余命わずかだと明かす夫を仕方なく家に上げるものの、穏やかな日々を土足で踏みにじっていく夫にイライラは募るばかり…。
失踪前から介護も家のこともすべて妻に任せきり。家に帰ってきたあとも靴は脱ぎっぱなしで、大切にしている「緑命会」の水晶をベタベタと触り、病気を理由になにもせず…。デリカシーのない言動を繰り返す夫の修に対して既視感を覚えた人も多かったようで、アンケートではパートナーへの不満が大爆発!
「家族に無関心なところ、自分だけ稼いでいると思ってる」(40代・女性)
「自分ができていないことを子どもに注意する」(40代・女性)
「貯金がいくらあるのか教えてくれない」(30代・女性)
「トイレットペーパーの補充をせず、使い終わった芯がちょこんとトイレに残されている」(40代・女性)
という女性側の意見が目立ったが、男性からも「家のことは独裁権があると思っている?」(70代・男性)という声が。さらに「家にまだ行かせてもらえないところ」(40代・男性)という、少しせつない回答も…。
さらに依子の日々を悩ませるのは夫だけではない。お隣さん(安藤玉恵)はなにかと家庭の事情を詮索してくるが、庭に飼い猫が入ってくることを指摘すると「本当にうちの猫ですか?」ととぼける始末。パート先のスーパーでは「(売りものに)傷がついているから半額にしろ」と偏屈な老人(柄本明)に怒鳴りつけられる。
そんな日常にいる“ちょっと嫌な人”が、絶妙なリアリティと共に描かれており、身に覚えのある観客も多かったのか、実際に出会った“ちょっと嫌な人”談も数多く寄せられた。
「スーパーのビニール袋をめちゃくちゃ取る人」(20代・男性)
「職場のおじさんが若い子に入ってきてほしいと、聞こえるように言ってくる」(30代・女性)
「人の悩みを聞いて相談に乗ってくれるふりをして、他の人にそのネタに話していた」(40代・女性)
「なにか話していても自分の話に持っていこうとし、アドバイスをすれば上から目線で返してくる」(40代・女性)
「『この人嫌い』と言いながら、自分から誘って遊んでいる人」(40代・女性)
「使っていない資格をチョイチョイ自慢してくる友人」(40代・女性)
そんな依子が唯一愛するのが、息子の拓哉。その帰郷を喜んでいたものの、帰宅した息子の隣には聴覚に障がいを抱える恋人の珠美(津田絵理奈)の姿が。どうしても珠美を受け入れられない依子は、拭い去れない自身の差別感情に苦悩しながらも、何度も名前を間違えるなど露骨に嫌味な態度を取ってしまう。つい「(息子と)別れてほしい」と口走るが、珠美も黙っておらず、意外な反撃が飛び出す…。
いつの時代にもある嫁姑問題という課題に対し、「相手の実家に行った時にほぼしゃべってもらえなかった」(40代・女性)、「自分の子ども(旦那)を優先しているのが目に見えてわかるところ」(20代・女性)といった体験談が並ぶ一方、男性からは「鈍いせいか、嫁姑問題を目の当たりにしたことはない」(30代・男性)と、のん気な言葉が寄せられていたのがまた印象的だ。
平穏とは真逆の日々に、行き場のない憤りを溜め込んでいく依子。夫の歯ブラシで排水溝を掃除したり、夫の衣類に消臭剤を大量に吹きかけたり、玄関にある夫の靴を蹴飛ばしたり、”半額おじさん”に不幸自慢で対抗したりと“小さな復讐”で怒りを発散していく。そんなわかりみの深い描写に対して、
「前の夫の弁当に、床に落ちたおかずを入れていた」(40代・女性)
「ダンナのいない日に高い寿司とかを食べる」(40代・女性)
「夫にはいいコーヒー豆は使わないですね、業務スーパーです」(40代・女性)
「夫の洗濯物は週に一回。トイレのマットや雑巾と一緒に洗う」(40代・女性)
「父宛てのエロ本通販のDMを捨ててやった」(30代・女性)
など、どこかクスッと笑える体験談がズラリ。一方、「やられてると思ったら怖い」(50代・男性)と戦慄する男性も。かすかな表情の変化で感情を表現する筒井の圧巻の演技によって、毒々しくもリアリティ抜群に浮かび上がる、自分を覗いているような依子の人物像は、多くの人の心に“波紋”をもたらしたようだ。