アラン・メンケンら『リトル・マーメイド』スタッフが明かす、新曲制作秘話やハリー・ベイリーの才能まで
「『スカットル・スクープ!!』は、まさにリン=マニュエル・ミランダ印の曲と言えます」(アラン・メンケン)
アニメーション版に引き続いて音楽を手掛けたメンケンは4曲の新曲を提供している。それらの楽曲は『ミラベルと魔法だらけの家』の挿入歌「秘密のブルーノ」を大ヒットに導いた稀代のヒットメーカー、リン=マニュエル・ミランダと共に作られている。メンケンは、そのうち3曲について詳しく説明してくれた。
「リン=マニュエルだけでなく、ロブ、ジョン、(脚本家の)デヴィッド・マギーとのグループワークでした。みんなで都度集まり、デヴィッドの脚色の進み具合や構成を確認しながら、新曲が流れるのにふさわしい位置を探りました。エリック王子(ジョナ・ハウアー=キング)がアリエルを引き止めるシーンがあります。この曲、『まだ見ぬ世界へ』はアリエルへのラブソングであり、彼がまだ見ぬ未開の深海への憧れであり、今後の彼の人生が進んでいく道筋を表す曲です。そして、この曲は映画全体を通してとても重要なテーマを担うことになりました」と言い、実写版ならではの新機軸になったと語っている。
また、アリエルが初めて陸へ上がるシーンの『何もかも初めて』は、マニュエル・ミランダに『軽快な曲を』とお願いしたところ、『ポップチューンにしましょう!』と言ってできあがった曲だということだった。「この曲からは、アリエルが見るもの体験することなにもかもが新しく、興奮している様子が現れています。そしてスカットル(オークワフィナ)とセバスチャン(ダヴィード・ディグス)の『スカットル・スクープ!!』は、『カリビアンな曲を』とリンにオーダーしてできた、サプライズギフトのような曲です。リンがその曲にラップを乗せたのですが、それがとても完璧でした。楽曲はそのままに、リズミカルな鼓動が伝わってきました。まさにリン=マニュエル・ミランダ印の曲と言えます」。
「ミュージカル映画は本当に微妙なさじ加減で、バランスを取るのが大変なんです」(ロブ・マーシャル)
マーシャル監督は、ミュージカル映画を作るうえでの悩みをこう明かした。「今作は多くの関係者の温かい支援によって、“ホーム”の状況で作ることができましたが、もはやディズニー以外の誰も、こんなミュージカル大作映画を作るようなリスクを取ることなどできないんじゃないかとも思います。ミュージカル映画は、とても厄介なんですよ。本当に微妙なさじ加減で、バランスを取るのが大変なんです。文字どおり、道を踏み外すと2秒で『サタデーナイトライブ』になっちゃう(笑)。誰かが歌い始めると、完璧に有機的にハマれるか、あるいは『あ、歌ってる、変なの』という瞬間になるか、どちらかなのですから」。マーシャル監督がそう言うと、メンケンがこう付け加えた。「だから私たちは、とてもデリケートな映画を構築しているのです。舞台では、俳優の出入りや舞台装置などを有機的に構築し、舞台全体のトーンを形作ります。ロブは舞台出身なので、その構造をとてもよく理解しているため、映画でも同じことができるのです」。
監督、作曲家、プロデューサーとして映画を支えた彼らが言うとおり、実写版『リトル・マーメイド』は、アニメーション版のDNAを現代に伝えながらも、映画的なスペクタクルに満ちている。ロブ・マーシャル監督による絶妙な“さじ加減”と、ベイリーをはじめ、コメディエンヌ演技ではないメリッサ・マッカーシーのアースラ、ハビエル・バルデムが最高のハマり具合のトリトン王など、ぜひ大きなスクリーンと最高の音響で楽しんでほしい。
文/平井伊都子