作品との親和性が“バズり”の要因に…アニメ「【推しの子】」と主題歌「アイドル」の相乗効果をひも解く

コラム

作品との親和性が“バズり”の要因に…アニメ「【推しの子】」と主題歌「アイドル」の相乗効果をひも解く

アイについて語る「アイドル」と、アクアとルビーの視点で見せるエンディングテーマ「メフィスト」との対比

トラップを用いた重低音のEDMサウンドに乗せて、しゃくり上げるような独特な節回し、アイドルソング特有の掛け声などを交えながら、ダウナーなラップも繰り出される「アイドル」。ikuraのボーカルはパートごとに温度感の違いを巧みに操り、アイの飄々とした立ち居振る舞い、元メンバーの嫉妬、こうであってほしいというファンの願いなど、アイを巡る様々な視点を見事に体現している。

「【推しの子】」における物語を引っ張る実質的な主人公は、アイの隠し子であるアクアとルビーの双子だ。しかしながら、アイについて歌った「アイドル」が主題歌として、毎回物語の冒頭に流れるのがミソで、アクアとルビーの奮闘がどんなに描かれようとも、これはどうしようもなくアイが導く物語であることが、ある種の呪いのように刷り込まれていく。また、女王蜂が歌うエンディングテーマ「メフィスト」は、アクアとルビーの視点による楽曲になっており、「アイドル」との対比が絶妙。「メフィスト」もまた、「【推しの子】」を「アイドル」とは異なる視点で見事に表現している。第7話のラストで、若手俳優の黒川あかね(声:石見舞菜香)がアイをトレースして見事彼女になりきってみせたシーンでは、同曲のシングルバージョンがイントロから流れたのも印象的で、楽曲の不穏なムードとも相まってドキッとさせられた。「メフィスト(=悪魔)」が、アイかアクアか誰のことを指すのか、などを考察するのも楽しい。

アニメと主題歌のヒットには“親和性”と“考察”が必須

近年のアニメ関連のヒット曲には「作品との親和性の高さ」に加えて、「考察する楽しみがあるかどうか」が必須となっている。LiSAが歌った『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(20)の主題歌「炎」や、Official髭男dismが歌った「東京リベンジャーズ」第1期オープニングテーマの「Cry Baby」など、どちらも劇中の登場人物の心情が巧みに織り込まれながら、作品の鍵となるものがギミックとして隠されていた。様々なメディアでそのことが取り上げられることで相乗効果を生み、社会現象と呼べる人気を博したのだ。


成長したアクアとルビーが芸能活動を行う一方で、アクアがアイを死に追いやった犯人を探すミステリー要素も
成長したアクアとルビーが芸能活動を行う一方で、アクアがアイを死に追いやった犯人を探すミステリー要素も[c]赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

「アイドル」も同様だ。歌詞に込められた真意を知りたくてアニメを観始めたファンも多く、逆にアニメのキーワードが巧みに込められた歌詞にハマって、「怪物」や「祝福」などYOASOBIのほかの曲を聴くようになった人も多いと聞く。もちろんアニメだけ、楽曲だけでも楽しむことはできる。しかし楽曲に込められたギミックと伏線に触れることで、より倍増する感動と楽しみがある。「アイドル」と「メフィスト」をじっくり聴き込めば、「【推しの子】」をさらに深く掘り下げて楽しむことができるだろう。

文/榑林史章

関連作品