連載40周年を迎えた「北斗の拳」原哲夫を直撃!「22歳の若き自分がそれまでの人生で好きだったものを詰め込んだ作品」
漫画のキャラクターは、実在する人間のイメージから引き出すことでよりリアルで魅力的になる
こうして、念願の拳法漫画を描くと誌面では大きな人気を獲得し、読み切り版の続編が描かれ、その後、週刊誌での連載が実現することになる。「北斗の拳」を週刊連載にするにあたって、原作の武論尊と話し合った末、設定は現代から核戦争後の荒廃した世界に舞台設定が変更された。ここにも大きな理由があった。
「連載に向けて現代から近未来に変えたのは、『マッドマックス2』や『ブレードランナー』、シド・ミードのコンセプトアートなどから発想が広がったからですね。特に荒野の世界観になったのは『北斗の拳』を準備しているなかで、やっぱり、拳法遣いが主人公の話なので、銃などの飛び道具があまり使えない世界のほうが物語を作りやすいというのがあって。それに、当時は『ノストラダムスの大予言』の影響で、世紀末的な不安感もあって。まさに米ソ冷戦の時だったので、核戦争が起こるかもしれないという時代性にマッチしたリアルな感じもあった。その結果、核戦争後の世界を舞台にすることになったんです」。
原はさらに、当時観ていた映画や愛読していた漫画によって「北斗の拳」という作品の厚みを増していったと語る。
「漫画で影響を受けたのは、大友克洋さん、池上遼一さん、赤塚不二夫さんなどですね。当時、大友さんは『AKIRA』を連載していて、その前にも『ファイヤーボール』とかすごい漫画を描かれていて。ビルやバイクの描き込みの凄さは『北斗の拳』にも影響が出ています。あとは、『マッドマックス2』や『ブレードランナー』の影響も大きいですね。特にシド・ミードが映画用に描いた高層ビルや衣装デザインなどのコンセプトアートにはかなり影響を受けています。
さらには『スター・ウォーズ』からの要素や、アメコミの影響による構図なども取り入れました。『北斗の拳』を描くにあたっては、単なる劇画をやるのではなく、アメコミと劇画と漫画の要素を全部合わせて新しい漫画のスタイルを作りたいという想いもありました。そうして、当時22歳の僕が子どものころから見てきたものや、好きなものを集大成的に入れ込んで、ミックスして描いたのが『北斗の拳』だったんです」。
「北斗の拳」のもう一つの魅力と言えば、存在感のあるキャラクターや衣装のデザイン。個性にあふれ、1度見たら強い印象を残すキャラクターのデザインも映画から多くインスパイアされたという。
「当時はビデオとかもまだなくて、映画館で観たものを記憶しつつ、資料になるのはパンフレットくらいしかなかったのでそのままマネして描いたりもしていたんですが、だんだんそのままやってはいけないと思いはじめて。そこから、デザインを変えていったところはありますね。そのあとは、いろいろと映画などの資料を集めてそのなかになるものから組み合わせて衣装デザインをしていきました。先ほどの『マッドマックス2』やシド・ミードのデザインやH.R.ギーガーの衣装デザインなどからインスピレーションをうけて。当時は『スクリーン』とか『ロードショー』などの映画雑誌は本当に大事な資料でした。俳優さんもたくさん載っているし、映画のワンシーンの写真もあるので、そうしたものから漫画に使えるものを常に探していましたね。
それこそ、僕は影響を受けたらそのまま絵に出ちゃうから、シルベスター・スタローンが『コブラ』という映画でサングラスをかけたらめちゃくちゃ格好よくて、『これだ!』とケンシロウにサングラスをかけさせたら、顔までそっくりになっちゃいました(笑)。『北斗の拳』のキャラクターは、ラオウやジャギ、サウザーやシュウなんかは思い入れも強くてデザインも気に入っています。漫画のキャラクターを作るということは描くうえで、実在する人間のイメージから引き出すことでよりリアルで魅力的になると思っています」。
スピンオフ作品がつないだ次の世代のクリエーターたちと迎える40周年
こうして誕生した「北斗の拳」は、連載開始から40年が経過した現在でも、ゲームやフィギュア、作品をモチーフにしたパロディ漫画などが多く生みだされ続け、多くのファンに愛され続けている。こうした状況をどのように受け止めているのだろうか?
「40年というのは振り返ってみると長いですね。なかでも、『北斗の拳』のパロディ漫画やスピンオフ作品を次の世代のクリエーターの方々が描いてくださっているのは、本当にうれしいですね。『DD北斗の拳』というデフォルメキャラで描くものがパロディものの最初だったと思うんですが、あれを始める時は結構苦労しているんですよね。僕が漫画を読み始めたきっかけは、赤塚不二夫さんの作品からなので、もともとギャグ漫画は大好き。
だから、『北斗の拳』のパロディものを描いてもらうのは全然問題ない。むしろ『北斗の拳』はある意味ギャグのつもりで描いているようなところもあるんです。雑魚や中ボス的に登場するキャラとケンシロウとのやり取りなんか、会話が通じてなくて、完全にギャグですから。あれは、赤塚先生の影響もあったので、ハードボイルドに描こうと思ってはいなくて。あのころ、僕も若かったから感性だけで自分なりにギャグっぽくしたりと誌面のなかで暴れていたのを、作品としてハードボイルドさとギャグという2つの要素が化学反応して良くなったのは、武論尊先生と堀江さんのおかげですね。
スピンオフ作品も『北斗の拳 イチゴ味』という作品から色々広がってきました。すごい才能の人が描いてくれていると感心していたし、新たに『北斗の拳 拳王軍ザコたちの挽歌』や『北斗の拳 世紀末ドラマ撮影伝』などの作品も出てきて。彼らの『北斗の拳』を好きだという想いは、漫画からしっかり伝わってきて、それでギャグとしておもしろくしてもらえるのはありがたいです。あとは、下の世代なりのおもしろさというのがあって。僕らの世代にはない感性で、僕だった思いつかないことをやってくれている。これは単なるパロディではなく、ギャグとして成立した作品になってきたと。これはパロディではなく、新しいギャグだなと。そこにすごいエネルギーと情熱を感じますね」。
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■「北斗の拳40周年大原画展」
2023年10月7日(土)~11月19日(日)
森アーツセンターギャラリーにて開催
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