インタビュー 2023/7/22 12:30

「インディ・ジョーンズ」ファンの現役指揮者が徹底解説！「レイダース・マーチ」を聴くとなぜ人は元気になるのか？

「シリーズのシメとして最高！これ以上のエンディングはない」

なかでも最も印象的だったのが、最終作にふさわしいエンドロールでの「レイダース・マーチ」の使われ方だったという。オリジナル・サウンドトラックでは、ほかの楽曲にも度々そのメロディが登場するが、17曲目に収録されている「New York, 1969」の中盤から流れる「レイダース・マーチ」には、特に耳を傾けてほしいと語る。

「エンドロールの部分だけ、『レイダース・マーチ』のテンポが違うんです。1～4作目は、メトロノーム記号でいうと大体126から132くらいで、ちょっと速めなんです。そもそも起死回生のテーマじゃないですか。だから、いつもピンチに入って、そこから抜け出すタイミングで鳴り始める。そんな曲なので、速めのテンポです。ところが、ここのエンドロールだけは、すごく重厚で116から120くらい。威風堂々たるテンポなんです。だからといって遅くて間延びするわけではなく、本当に威厳に満ちた、中身の濃い『レイダース・マーチ』になっている。ここは聴きどころですね。プレーヤーもリスペクトして演奏しているので、人間でなければ生みだせない、AIには出せない音だぞ、という演奏です。エンドロールなのでインディの映像はもう出てきませんが、シリーズのシメとして最高！これ以上のエンディングはないように感じました」。

「アンネ＝ゾフィー・ムターはこれまで映画界とはあまり接点がなかったはずなので、聴きどころじゃないかと思います」

エンドロールの2曲目に流れるのは、「Helena’s Theme」。サウンドトラックのラスト、18曲目には特別バージョンとして、ウィリアムズが世界的ヴァイオリニスト、アンネ＝ゾフィー・ムターのために書き下ろした「Helena’s Theme (For Violin and Orchestra)」も収録されている。

親友の娘、ヘレナとの再会で、“運命のダイヤル”を巡る攻防に巻き込まれるインディ[c]2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved. 『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』大ヒット上映中

すべての写真を見る(30件)

「『シンドラーのリスト』でもイツァーク・パールマンを起用して、それが大きな話題になりましたよね。アンネ＝ゾフィー・ムターは13歳で20世紀を代表する名指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンと共演したことなどでもよく知られている最高のヴァイオリニストの一人で、同様の驚くべきタッグです。もちろん、テクニックもマインドもすばらしい方ですが、これまで映画界とはあまり接点がなかったはずなので、聴きどころじゃないかと思います」。

9月には約30年ぶりの来日コンサートも予定されているジョン・ウィリアムズ。最後に彼の音楽の魅力について改めて尋ねると、「音を通して人間の喜怒哀楽を表現し尽くせる、すごい作曲家だと思います」と感慨深そうに答えてくれた栗田。『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』でインディにとって最後の冒険を楽しむと共に、劇場やサウンドトラックでウィリアムズの音楽にも酔いしれてほしい。

取材・文/村上ひさし

■栗田博文
指揮者。1988年第23回東京国際音楽コンクール指揮部門において優勝。1989年イタリアにおいて第1回アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールに入賞し国際的な評価を確立。1995年フィンランドにて第1回シベリウス国際指揮者コンクールの最高位に輝く。国内外の活発な指揮活動と共に、国立音楽大学客員教授を務め、後進の指導にも力を注いでいる。クラシック音楽の古典から現代作品まで幅広いレパートリーを持つほか、映画、ゲーム、アニメなど様々なジャンルとのコラボレーションも積極的に行う。2023年8月には「銀河鉄道999シネマ・コンサート」の公演も控える。
・公式サイト：https://www.musicachiara.com/kurita-hirofumi