満を持して「クレヨンしんちゃん」3DCG化!アニメーション初挑戦となった大根仁監督の歩みを振り返る
『SCOOP!』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』などリメイクもお手のもの
ドラマや映画の国内外の名作をリメイクし、その素晴らしさを現代に伝える作品も数多く発表している大根監督。原田眞人監督&脚本の『盗写/250分の1秒』(84)をリメイクした『SCOOP!』(16)では、芸能スキャンダル専門のカメラマン(福山雅治)のムチャな行動を、実際に行われた嘘みたいなスクープ撮影テクニックを再現しながら現代風に描写。
弘兼憲史の1980年代の人気コミックをドラマ化した「ハロー張りネズミ」の場合は、原作の人情モノのテイストは大事にしながらも、既存の映像作品とは違う大根監督らしい探偵事務所ものに。主人公の探偵、七瀬五郎(永山瑛太)の扱う事件の趣きが毎話ガラリと変わるため、コメディや社会風刺などエピソードごとに変化する大根ワールドを楽しめた。さらに、韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』(12)のリメイク『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18)では、1990年代のヒット曲をちりばめながら、日本ならではのコギャル文化を検証。時代や風俗を刻む映画の特製を活かす、これらのクリエイトも大根監督を語るうえで欠かせない。
パンドラの箱を丁寧にほどき話題を集めた「エルピス —希望、あるいは災い—」
そんな大根監督が最も攻めた近年の問題作が、社会的に話題になったドラマ「エルピス —希望、あるいは災い—」だ。本作はスキャンダルでエースの座から転落し、いまは深夜の低視聴率の情報バラエティ番組のMCをしているテレビ局のアナウンサー、浅川恵那(長澤まさみ)が、ひょんなことから冤罪事件の真相究明に乗りだす社会派エンタテインメント。
バラエティ番組のセットや進行の裏側、番組を作るスタッフたちの生々しい言動がこの世界を熟知した大根監督の鮮やかなタッチで切り取られていく。だが、本作が世間をざわつかせたのはその先。冒頭で「実在の数件の冤罪事件から着想を得たフィクションです」というテロップを周到に流し、冤罪事件の実態と、あまり描かれることのないテレビ局をはじめとしたこの国のマスコミの功罪や闇に一気に踏み込んだのだ。そこには、大根監督のジャーナリストとしての視線がくっきり。報道が触れない問題をフィクションの力で暴く――大根監督の辣腕映像クリエイターの本質はここにある。
『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦~とべとべ手巻き寿司~』はどうなる?
ところが、最新作は「エルピス」とはまったく世界観が異なる『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦~とべとべ手巻き寿司~』!毎回意表を突く新作でファンを騒然とさせてきた大根監督が、国民的アニメ初の3DCG作品でなにを仕掛けたのか?
ヒントはサブタイトルの「超能力大作戦」。しんのすけが目覚める「TRICK」を想起させる超能力や、クセ強キャラを埋もれさせずに活かすのが上手い大根監督らしいエッセンスをちりばめながら描かれる。だが、それだけで終わるわけがない。エンタメと社会性のバランス感覚に優れた大根監督が描く、見たことのないしんちゃんに、子どもから大人まで目が釘づけになるはずだ。
稀代のクリエイターが描く『クレしん』に期待!
ここまで、大根仁監督のスキルの高さと体験に基づく幅広い知識、作品ごとにタッチが変えられる確かな技術と柔軟なスタンスを解説してきた。『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦~とべとべ手巻き寿司~』には、そんな稀代の映像クリエイターのすべてが凝縮されている。「大根仁監督が“クレしん”を撮ったらこうなる!」を体感できる93分を、ぜひ全身で満喫してほしい。
文/イソガイマサト