「間違いなく大きな節目になる」。宮藤官九郎が語った「季節のない街」のキャリアにおける重要性

インタビュー

「間違いなく大きな節目になる」。宮藤官九郎が語った「季節のない街」のキャリアにおける重要性

「仮設住宅に住んでいる人たちはその日だけそこにいるわけじゃない」

そして、本作は宮藤作品としては2013年の朝の連続テレビ小説「あまちゃん」に続き被災地、被災者が登場するドラマとなる。「震災があった年に、そういう作品を作りませんかという話はいくつか来ていたんですけど、自分の作品にその題材を持ってくるのはまだちょっと早すぎるんじゃないかと思ってお断りしていたんです。唯一、『あまちゃん』だけは、最初は震災と関係のない話として考えていましたが、いま三陸鉄道を描くのに触れないのも変だと思ったから物語の途中で震災が起こることにしました。『季節のない街』は現代の物語としてみてもらいたかったので舞台を仮設住宅のある街にしました」。

仮設住宅の「街」を舞台にしたドラマ「季節のない街」
仮設住宅の「街」を舞台にしたドラマ「季節のない街」ディズニープラス「スター」で8月9日(水)より全10話一挙独占配信

劇中にも「過去でも教訓でもない」というセリフが出てくるが、震災から10年以上の歳月が経ったいま、宮藤自身はどのように捉えているのだろうか。「3月11日になると『今年で何年です』とか、『あの出来事を教訓に』という報道はされるけど、たぶん僕が性格がねじくれているからだと思うんですが、『毎年この日だけかよ』って。仮設住宅に住んでいる人たちはその日だけそこにいるわけじゃなくて、ずっとここにいる人たちなんだから、違う気持ちだろうなって思っていたんです。取材をした時も、別にずっと深刻な顔をしていなくてもいいけど、忘れないでほしいっていう声を聞いて。仮設住宅という舞台でドラマを書くんだったら、もうちょっと踏み込みたいなと思ったから、ああいうセリフになりました」。

「池松くんは、見た人が想像力をかきたてられる役者さんだと思っていました」

本作の主人公は、原作小説「半助と猫」のエピソードに登場する半助こと田中新助(池松壮亮)
本作の主人公は、原作小説「半助と猫」のエピソードに登場する半助こと田中新助(池松壮亮)ディズニープラス「スター」で8月9日(水)より全10話一挙独占配信

今回のドラマ化にあたっては、『どですかでん』では登場しない原作の「半助と猫」のエピソードから、職業や年齢などの設定を変えて半助を主人公に据えた。「さっきまで主役だった人が、別のシーンではその他大勢として存在するっていうのが『どですかでん』のすごい好きな部分です。今回は連ドラなので、例えば5話は完全に島さんの話なんですけど、それ以外の回にも出てくるという構成になっている。でも、やっぱり主人公が必要だと思ったんです。それは、この変な世界を初めて見る人がいい。とはいえ、これは『季節のない街』のドラマ化なので完全なオリジナルキャラクターにしたくはなかった。それで黒澤版では割愛されている半助がいいなと。もともと『半助と猫』のエピソード自体好きだったんですよ。猫が自分の目につかないところでは全然性格が違うっていうことを描いていて。この猫を皆川猿時さんに擬人化してもらいました(笑)」。

タツヤ(仲野太賀)、半助(池松壮亮)、オカベ(渡辺大知)で結成された「街」の青年部
タツヤ(仲野太賀)、半助(池松壮亮)、オカベ(渡辺大知)で結成された「街」の青年部ディズニープラス「スター」で8月9日(水)より全10話一挙独占配信

そんな半助役には宮藤官九郎作品は意外にも初となる池松がキャスティングされた。「池松くんはなにもしてなくてもなにか背負っているものがあるような、しゃべっているセリフにも裏がありそうな、見た人が想像力をかきたてられる役者さんだと前から思っていました。だから、池松くんがやってくれたら、自分も12年前の“ナニ”ですべてを失った人という深みが出ておもしろくなるんじゃないかって思いました。なおかつタツヤとオカベというメンバーで青年部を作りました。3人の若者ってドラマにしやすいじゃないですか。僕も何本かやりましたけど(笑)」。

「『俺はなにやったっけ?』と振り返った時に『季節のない街』は優先順位高く思い出すだろうなと思います」


黒澤明監督作『どですかでん』(70)への敬愛や、本作に込めた想いを明かした
黒澤明監督作『どですかでん』(70)への敬愛や、本作に込めた想いを明かした撮影/河内彩

半助は「街」で見たものや聞いた話を謎の依頼主、三⽊本(鶴見辰吾)にメールで報告するだけで報酬がもらえる“仕事”に就いており、そのことがやがて、「街」に変化をもたらすことになっていく。悪気のあるなしにかかわらず、暴いて広めることの加害性も描かれている。「スマホを持っていれば誰でもなんでも発信できちゃう時代ですからね。その気軽さに対する『それでいいのか』っていう気持ちはありますね。だから第1話では、半助は気になるから六ちゃんをずっと見ているんですけど、その六ちゃんを街の人たちは見えてないようにふるまっている。けど、実は見ていないようで街の人たちもちゃんと見ている、という様子を描いています。そのくらいの眼差しがいいんですよね。また、半助はそんなつもりはなかったのに情報を拡散して、ホームレスの親子の運命を変えてしまったりもしてしまう。声高には言っていないですが、確かに現代社会を表しているなと思います」。

宮藤は映画、朝ドラ、大河、演劇、配信作とあらゆるメディアを経験してきた。そんななかで、本作の発表に伴い「自分の第二章が始まるような気がする」とコメントを寄せていた。「それぐらい大げさに言ったらちゃんと宣伝してくれるかなって(笑)。実際に自分がいま第何章なのかも本当はわかってない。でも、あとから『俺はなにやったっけ?』と振り返った時に『季節のない街』は優先順位高く思い出すだろうなと思います。ずっと好きでやりたかった作品を形にできたので、間違いなく大きな節目になるドラマになったと思います」。

取材・文/戸部田 誠(てれびのスキマ)

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