内野聖陽、瀬戸康史が眼前にいるかのような臨場感!三谷幸喜の傑作舞台「笑の大学」高品質上映を体験してみた

コラム

内野聖陽、瀬戸康史が眼前にいるかのような臨場感!三谷幸喜の傑作舞台「笑の大学」高品質上映を体験してみた

緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化 支援事業(通称EPAD)が主催する「EPAD Re LIVE THEATER in PARCO〜時を越える舞台映像の世界〜」が、7月12~16日までの5日間、PARCO劇場にて開催された。EPADがこれまでの事業で収集してきた舞台芸術作品から3作を上映し、「舞台芸術が上演された時間を映像というかたちで未来につなげ残していくために、舞台映像の“上映”の可能性を探る」ことを目的とされたこの連続上映会。高品質上映ってどんなもの?と疑問を抱く人のため、今回はそのうちの「笑の大学」8K+立体音響上映についてレビューしていく。

【写真を見る】 三谷幸喜による傑作舞台「笑の大学」を高品質映像で上映!通常となにが違う?
【写真を見る】 三谷幸喜による傑作舞台「笑の大学」を高品質映像で上映!通常となにが違う?

「笑の大学」は三谷幸喜が作・演出を手掛け、1994年のラジオドラマ初演ののち、1996年に東京にて舞台を初演。以降、ロシアやフランス、韓国など各国で翻訳上演されているほか、2004年には映画化もされた。そんな本作が今年2月、キャストに内野聖陽瀬戸康史を迎え、三谷自身の演出で25年ぶりに復活し、PARCO劇場を皮切りに全国8都市で上演された。

舞台は昭和15年。戦時色濃厚な非常時において、興行を行うには検閲官に脚本を提出し、認可が必要だった。検閲官の向坂(内野聖陽)は、浅草の劇団「笑の大学」座付き作家である椿(瀬戸康史)を呼び出し、新作喜劇の台本内の様々な箇所に修正を加えるよう、無理難題を押し付ける…という、警視庁取調室で2人の作業が行われる7日間を描いた作品だ。

内野聖陽と瀬戸康史による二人芝居「笑の大学」
内野聖陽と瀬戸康史による二人芝居「笑の大学」 撮影:細野晋司

今回上映されたのは、今年2月のPARCO劇場での上演を、8K定点映像・立体音響で撮影したもの。上映会の3作品の中で唯一、上演と上映が同じ劇場で行われたものとなる。その効果か、上映で最初に感じたのは強い臨場感だ。まず舞台上手に浮かび上がる内野の姿に息を呑む。劇場が同一であることで違和感も最小限となり、後方の席ともなれば、実物の舞台の床と映像の中の床はひとつづきのようにも見える。映像と言えど、登場人物たちが確かにそこに立っているような存在感に驚かされた。

また、立体音響により音が発生する方向も含め、リアルに再現されていた。印象深かったのは、俳優が立てる靴の音だ。内野が演じる向坂陸男は満州帰りの検閲官であり、笑いを解さず、喜劇台本にも次々無粋な修正を指示してくる男。舞台上手で椿を説き伏せるかのように歩き回る向坂は重厚な足音を立てる。そんな向坂の要求に応える、劇団「笑の大学」の座付き作家である椿一は、無茶な修正にツッコミを入れつつも向坂の無理難題を受け入れながら、より笑える台本にしようと試行錯誤、時には座長の一発ギャグを機敏に行うなど、瀬戸の足音が表す椿の動きはリズミカルで軽妙だ。演技を通じた俳優の身体性を、体格や衣装といった視覚のコントラスト以外でも強く感じることができた。

「笑の大学」も手掛けた美術家・堀尾幸男の展示も同時開催
「笑の大学」も手掛けた美術家・堀尾幸男の展示も同時開催


連日の修正作業を通して、向坂と椿の間にはコミュニケーションが積み重なっていく。向坂は自他ともに認めるほど、笑いを解さぬ堅物ぶりだが、家に入り込んだカラスのエピソードなど、本人も意識していないユーモラスさを椿は発見し、やがて作業を通して向坂は笑いを理解してゆき、ついには生み出そうともする。一方で、連日の検閲官からの呼び出しに応じ、無理難題も含む要請に夜を徹して修正を施す椿の姿は、同業者をはじめ周囲からは肯定的に思われていない。検閲に加え、そうした周囲からの冷たい視線にも屈さない椿は、「笑い」に対する確固たる信念を持っている。

靴音までリアルな音声と鮮明な映像により、まるで俳優が舞台上にいるかのような感覚に
靴音までリアルな音声と鮮明な映像により、まるで俳優が舞台上にいるかのような感覚に撮影:細野晋司

足音に感じられた重厚―軽妙のコントラストだが、そのイメージがゆっくり交差していくように、笑いに対して変化を遂げていく向坂の柔軟さと、椿の持つ軽妙さの奥にある喜劇作家としての芯の強さが、日々を積み重ねていくごとに次第に明確になってくる。

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