『アステロイド・シティ』ウェス・アンダーソン監督にインタビュー。完璧なアートワークの根源は舞台美術から?
「キャラクターを描くうちに、俳優の顔が見えてきます」
人物といえば、キャスティングだ。ウェス作品といえば登場人物が多いことも特徴として挙げられるが、順番としては、脚本に俳優を当てはめていくのか、俳優を決めてから脚本を書き始めるのか、気になるところだ。
「どちらが先ということはなくて、脚本を書きながら色々思い浮かぶんです。今回、メインキャラの戦場カメラマン役はジェイソン・シュワルツマンのために書き下ろしましたが、それ以外はキャラクターを描くことに集中しました。書き進めていくうちに次第に俳優の顔が見えてきて、書き終わったころには、ある程度ねらいは定まっています。でも、その人に声をかけると『その役には興味ないけどこっちならやりたい』とか言われることもあるので、シャッフルしなくちゃいけなくなる。レギュラーメンバーに関しては、脚本が完成に近づいたころにスケジュール調整に入ります。だからまあ、ヨーイドン!と一斉にスタートするわけにはいかず、諸々全部が同時進行している感じかな」
今回のサプライズはアンダーソン作品に初めて登場する宇宙人だ。これの”キャスティング”はどうやったのだろうか。
「造形を考えていくうえで最初に思い浮かんだのは、なぜか、ジェフ・ゴールドブラムでした。彼の演技をベースにしてストップモーション・アニメの制作に入ったのですが、そこで協力してもらったのがこの分野の第一人者の一人であるキム・クークレールです。『ファンタスティックMr.FOX』(12)と『犬ヶ島』(18)でも組ませてもらいました。いつも思うのですが、ワンフレームずつ撮りながらも、なぜあんなふうに命を吹き込めるのか不思議なくらいです。ストップモーション・アニメって、僕にとっては神秘なんですよね」
『ファンタスティック~』のセットでは背景に合わせて茶色のコーデュロイスーツとクラークスのワラビーズを、『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)の会見では映画のイメージカラーだったピンクに合わせてワインカラーのスーツをそれぞれ着ていた監督。最新作のセットではどんなスタイルで決めていたのかを最後に訊いてみた。
「今回は撮影のために白いスーツを2着と帽子を新調しました。スーツの生地はシアサッカー(夏向けのコットン素材)です、なにしろ、ロケ地は日中38度の猛暑でしたからね。そのために麦わら帽は必須だったのですが、赤土を被って次第に白から赤に変色していきました。スーツのジャケットには、度数が異なるメガネを仕舞うためのポケットをたくさん作ってもらいました。現場で着る服はいつも実用性と機能性を重視しています」
ちなみに、最新作のテーマカラーは白からパステルカラーまでのグラデーションだ。取材日当日、ロンドンのホテルに滞在中だった監督は、部屋のクロスに合わせてライトブルーのシャツを着ていた。本人はあえて話さないが、彼の服選びを見ると実用性もさることながら、自分も作品、または背景が織りなすアートワークの一部だという意識でいるような気がする。
取材・文/清藤秀人