大泉洋が語る、尊敬する巨匠から受けた刺激「山田洋次監督は諦めないし、ものすごく謝る」
数々の作り手から愛され、シリアスからコミカルまで幅広く演じられる俳優として大活躍している大泉洋。山田洋次監督の91歳にして90本目の監督作となる最新作『こんにちは、母さん』(公開中)では、初の山田組への参加が実現。主演を務める吉永小百合と、親子役を演じている。幼いころから「男はつらいよ」シリーズが大好きで、山田監督の生みだす笑いが自身にも少なからず影響を与えているという大泉。現場では山田監督が「ものすごく謝る」ことにも驚いたという大泉が、監督の演出術や映画作りへの姿勢、受けた刺激を語った。
「吉永小百合さんから大泉が生まれるなんて(笑)。でも現場では、自然と『母さん』と思えた」
本作は、大企業の人事部長として神経をすり減らし、家では妻との離婚問題、娘の舞(永野芽郁)との関係に頭を悩ませる昭夫(大泉)が、久しぶりに母の福江(吉永)が暮らす東京下町の実家を訪れたことからはじまる、“等身大の家族”を描く物語。変わりゆく令和の時代に、いつまでも変わらない親子のつながり、人の温かさを映しだしていく。大泉は「とても共感できるシーンが多かった」と脚本を読んだ感想を振り返る。
「おそらくいろいろな世代の方が、いろいろな役に共感ができるんじゃないかと思うんです。僕らの親世代ならば小百合さんが演じる福江を見て共感すると思いますし、僕なんかはやっぱり、昭夫にとても共感しました。誰しもが会社に対して不満があったりすると思うんですが、劇中では昭夫が抱えているそういった悩みが非常にうまく描かれている。僕はサラリーマンではないですが、働いていれば厳しい局面に向き合う場面もありますので、昭夫の悩みについても『わかるな』と思うことばかりでした」と演じたキャラクターに心を寄せる。
また昭夫の母親に対する態度についても、大泉は「息子って、母親にこういうことを言っちゃいますよね。言っても許してもらえたりするよね、と思った」とうなずけることばかりだったという。母親が新しい恋をしていることを知ってイライラしてしまったり、仕事や家庭のことで頭を悩ませた時には実家に入り浸って母親に愚痴をこぼしてみたりする昭夫だが、「昭夫が母親に甘える感じもよくわかる。そして昭夫にとっては、自分が頼ることで、『私にはまだできることがあるんだ』と母親を元気づけたいという思いもあるんですよね」と言葉にはしない昭夫の心情までが染みわたったそう。
福江と昭夫の会話は、観ているこちらも笑いながら、じんわりと温かな気持ちになるような場面ばかり。吉永と大泉の息のあったやり取りに大いに魅了されるが、「舞台挨拶などでキャストが一緒に並んでいると、『吉永小百合さんから大泉洋が生まれるなんて不思議だな』と思って(笑)。僕から永野芽郁ちゃんが生まれるのもまたおかしいしね!」と大笑いした大泉。しかしながら「セットに入って、吉永さんを見ると自然と『母さん』という感じがした。山田監督が細やかな演出をつけてくれることで、どんどん人間味が増して、リアルな親子になっていくのがものすごくおもしろかった」と述懐し、「完成作を観た時に、昭夫の母親でありつつ、恋する女性でもある福江さんという役柄を、あれだけ魅力的に、キュートな人間として演じられてしまうのが、やっぱり大女優・吉永小百合なんだなと思いました。全編通して観た時に、小百合さんのすごさを改めて思い知りました」と唯一無二の輝きに惚れ惚れとしていた。