ファーストサマーウイカが体当たりで挑んだ“美雪”『禁じられた遊び』で見る新たなホラークイーン像
美しさと妖しさ両方を纏うファーストサマーウイカ
そんな”美雪”を、文字通りの体当たりの芝居で最凶ホラーアイコンに作り上げたのがファーストサマーウイカだ。彼女自身がもともと持っている、美しくもどこか妖しい雰囲気が生前の美雪のシーンから全開。本編冒頭から、絵に描いたような幸せな家族の風景が描かれるが、美雪が直人の耳元で「もう裏切らないでね」と囁いた瞬間から空気は不穏なものに。その際のウイカの眼光も鋭く、たちまちゾワゾワさせられるが、本当に怖いのはここからだ。
一度は死んだ“美雪”が蝶が羽化するように蘇り、美しい顔が苦悶に歪んだおぞましい表情へと変貌。肉体には彼女の趣味であるガーデニングで丁寧に育てられた植物がまとわりつき、恐ろしさと醜さを増強させる。そんな変わり果てた”美雪”を、ウイカは毎回4~5人がかりで4時間かけて行ったという全身特殊メイクで体現。ほぼ全裸に近い状態で、衣類が擦れるとメイクが取れてしまうため最小限の羽織だけで現場に立ち、この難役を自分のものにしたが、そのインパクトは決してメイクによるものだけではない。アーティストとしても活躍してきた彼女の圧倒的なパフォーマンス力と生命力、肉体のパワーが、決してあきらめない”美雪”をより生々しく強烈なものにしている。ウイカだからこそ、この新時代のホラークイーンを完成させることができたと言ってもいいだろう。
高いポテンシャルを持つ3人によるバトル
本作の最大の見どころは、言うまでもなく“美雪”を作り上げたウイカと、比呂子に扮した橋本、直人役の重岡との壮絶なバトルだ。“美雪”は生きている人間以上にギラついた目力で追いかけてくるが、直人は、かつては愛する妻だった彼女を倒すことに躊躇し、手にした斧を振り下ろすことができない。
その一方で、最初は逃げていたのに反撃に転じ、みるみる強くなっていく比呂子の構図がおもしろい。スタンスの異なるキャラに卓越したポテンシャルを持つ三者が命を吹き込む。それにより、畳みかけるような恐怖にさらなるリアリティを与え、一瞬たりとも息が抜けない映像に仕上がっている。
ファーストサマーウイカが生みだす“美雪”の恐怖に刮目せよ!
今年も『Pearl パール』の“パール”、『忌怪島/きかいじま』の“イマジョ”、『ミンナのウタ』の“さな”など、ホラーアイコンが次々に登場し、観る者を震撼させてきた。だが、『禁じられた遊び』の“美雪”は、見た目のおぞましさや迫力、革新的な動きと恐ろしい能力、怒濤のしつこさのすべてにおいて、ほかとは一線を画す圧倒的な存在だ。
ファーストサマーウイカが全身全霊で作り上げた、この令和最凶のモンスターは、いったいどんな恐怖をもたらすのか。映画館の暗闇に身を任せ、アトラクション感覚で“美雪”の恐ろしさを味わってほしい。
文/イソガイマサト