「ディズニー・オン・クラシック」21年の歴史を知るコンサートマスターに聞いた!今年の見どころから貴重な舞台裏まで
世界中で愛され続けるディズニー・アニメーションや映画、あるいは子どもから大人まで夢中にさせるパークの音楽を、オーケストラとニューヨークで活躍するヴォーカリストが生演奏で魅せる、大人のための音楽会「ディズニー・オン・クラシック」。この“耳で味わうディズニー世界”は、ディズニー創立100周年を迎える今年、節目を記念した特別プログラムや、『美女と野獣』をフィーチャーする「ディズニー・オン・クラシック 〜まほうの夜の音楽会 2023」として開催される。今回、本イベントに第一回から参加し、長くコンサートマスターとして腕を振るってきた青木高志に、21年の歴史を振り返りながら、今年の見どころや楽しみ方、演奏者視点から明かす貴重な舞台裏など、興味深いエピソードをたっぷり語ってもらった。
「演奏者目線でみんなが弾きやすいように示すのがコンサートマスターの役目です」
当時青木が在団していた東京フィルハーモニー交響楽団に、第一回「ディズニー・オン・クラシック」の企画が持ち込まれたのは2002年のこと。妻の影響で大のディズニーファンになっていた青木は、思わず大興奮したという。「どんな内容になるのか分からないまま、ディズニー音楽のコンサートだと聞いて、すぐさま出演に手を挙げました。初演時は3公演のみでしたが、アニメーション版『リトル・マーメイド』の主人公アリエルのオリジナル・キャストを務めたジョディ・ベンソンさんが、僕らの演奏と共に生で歌を披露されて、本当に感激しました。以来2014年まで、全公演のコンマス(コンサートマスターの略)を務めました」。2015年以降は公演回数の増加などでコンサートマスターが2人体制となったが、青木はいまもなおコンマスを務め続けている。
演奏者は常に楽譜と指揮者に気を配りながら演奏するが、コンサートマスターとは「指揮者の意向をいち早く汲んで、細かなニュアンスも含め、率先して演奏でそれを示す」役割だという。「50人以上、時に70人を超える大所帯となるフルオーケストラでは、たまに指揮者の身振り手振りに対する理解に誤差が生じることがあるんです。そういう時、(ヴァイオリンの)弓などのちょっとした動きで、いま、自分たちが乗っている(オーケストラという)船の船長(=指揮者)は、これくらいの速さでこっちに向かおうとしているぞ、とコンマスが示します。要は演奏者目線で、みんなが弾きやすいようにするのが役目ですね」と噛み砕いて説明してくれた。
「今年も50公演ほどありますが、一つとして同じ演奏はありません」
なにしろ演奏は、生もの。聴衆のノリや空気によっても、あるいは指揮者の性格やタクトの振り方、さらにその日の状況によっても、微妙に変わってくることがあるだろう。それがライブ感であり、おもしろさにもつながる。「今年も50公演ほどありますが、一つとして同じ演奏はありません。昨日はこれくらいだったけれど、今日はもう少しだけテンポを上げてみようなど、回によって微妙なニュアンスの違いが出てきます」。
続けて、「もちろん基本は楽譜に忠実なので、お客様は気づかないかもしれませんが」と前置きしながら、「客席がものすごく盛り上がっていたら、演奏する僕らも人間ですから、もっと盛り上げようと微妙に音量が大きくなることも、テンポが速くなることも当然あります」と明かす。「何度も足を運ばれるお客様の中には、そんな微かな違いも感じ取って、感想を送ってくださる方もいらっしゃいます」とうれしそうな表情を浮かべた。
多くの人に愛されて止まないディズニー音楽の魅力とは、ずばり「感情移入しやすいように作られているメロディー」だと明言する。「多くは映画のための音楽ですから、それこそが作曲家の力量の見せどころだと思います。演奏していても、いかに感情に訴えるか非常に考えられているなと感じます。また、このイベントではディズニー映画の名シーンが映像として流れますが、その動きと音楽がリンクするように作られているので、さらに感情移入しやすくなるのでしょうね」と分析。「例えば『アラジン』でアラジンとジャスミンが魔法のカーペットに乗って宙返りをするシーンでは、音がヒュッと上がったりするでしょう?」と具体的なシーンを挙げ、音楽によって観客の気持ちがいかに高揚させられるかを気づかせてくれた。
20年を超えるコンサートの歴史では、当然ながら音響や映像の使い方といった技術的な進化は大きいに違いないが、むしろ青木は初回時から“変わらないもの”について、「いかにお客様に“夢の一夜”を過ごしていただくか、いかに笑顔にさせられるかという精神や姿勢は、ずっと変わらず受け継がれているのを感じます」と誇らしげだ。だからこそ演出も、矛盾するようだが刻々と進化しているとも言えるだろう。「もっとお客様に楽しんでもらうため、(その時に演奏していないパートは)一緒に手拍子をしていいんじゃないか、ここで立ち上がってみるのはどうかなど、団員たちから提案が出てくる」そうで、場内をより一丸となって音楽を楽しめる空間へと昇華させるため、創意工夫が凝らされているようだ。