“第二の「イカゲーム」”との呼び声も高い「ムービング」のメインキャラをチェック!世代で継承する超能力の苦悩と希望

コラム

“第二の「イカゲーム」”との呼び声も高い「ムービング」のメインキャラをチェック!世代で継承する超能力の苦悩と希望

ドラマでも映画でも、これまで韓国ではSFジャンルでヒットする作品が少なかった。今夏、そうした負のジンクスを吹き飛ばすドラマが誕生した。Disney+で最終話が配信されたばかりのオリジナルシリーズ「ムービング」だ。

【写真を見る】超能力を持つ少年少女たちのヒーローアクション!
【写真を見る】超能力を持つ少年少女たちのヒーローアクション![c]2023 Disney and its related entities

累積再生数2億ビューを突破した作家カンプルによる同名人気ウェブトゥーンを原作に、スタッフには「イカゲーム」の制作陣が参加。韓国ドラマ史上最高額の制作費約650億ウォンが投じられている。K-コンテンツの粋を極めた本気度の強い本作は、8月9日に配信が始まると、その週のTV・OTT話題性部門で1位に上昇。エピソードを重ねるごとにSNSで評判を呼ぶあたり、話題のみならず作品の満足度が高いことが伺える。映画業界にもファン層は広がっており、まもなく初監督作品『ハント』(9月29日公開)が日本で公開されるイ・ジョンジェも、最近のフェイバリットドラマに挙げている。

群像劇のスタイルを取る「ムービング」は、世代の異なるキャラクターたちの強い個性と深いビハインドストーリーが調和し、あるいは葛藤が重なり合って物語が膨らみ推進力を増している。今回は、ドラマを熱くする魅力的な主要キャラクターを紹介しよう。

飛行能力と超人的な五感を受け継いだボンソク、その両親ミヒョンとドゥシク

ソウルにあるチョンウォン高校。3年3組の生徒の一人ボンソク(イ・ジョンハ)は、天真爛漫な笑顔の男子高校生だ。一見ごく普通だが、登校の出で立ちはダンベルを詰め込んだリュックサック、両足首におもりを装着するなどかなり異様だ。

両親から超人的な能力を隠しながら現在を生きる高校生ボンソク
両親から超人的な能力を隠しながら現在を生きる高校生ボンソク[c]2023 Disney and its related entities

ボンソクの風変わりな格好の秘密ーそれは、類い希に鋭敏な嗅覚や味覚、聴覚などの感覚と飛行能力が備わっていることだ。思春期でまだ自分自身でコントロールすることに不慣れなのか、寝ている間や感情が不安定になると体が浮いてしまったりする。

ボンソクのスーパーパワーは、両親に由来する。1990年代、優れた感覚を持つミヒョン(ハン・ヒョジュ)は、要員として国家安全企画部(国内外の機密保持や安全保障を司ったかつての国家情報機関で、現在の国家情報院)に在籍していた。人知を超えた五感を持ちあらゆる任務をこなせるエリートだったが、スパイ殲滅作戦を失敗させたことで左遷されてしまう。

作戦の失敗で左遷されたミヒョンに課せられた任務とは
作戦の失敗で左遷されたミヒョンに課せられた任務とは[c]2023 Disney and its related entities

そこで与えられたのが、“ブラック”と呼ばれる凄腕の工作員の一人、ドゥシク(チョ・インソン)に近づき親密になることだった。彼を監視するために利用されたミヒョンだったが、2人は心から惹かれ合う。ドゥシクもまた、自身の職務に憂鬱を感じていた。

 人並み外れた戦闘力と超能力を持つ優秀な“ブラック”のドゥシク
人並み外れた戦闘力と超能力を持つ優秀な“ブラック”のドゥシク[c]2023 Disney and its related entities

ドゥシクはある重大な任務の後、幹部に銃を向けて失踪。のちにミヒョンと再会すると、超能力を捨て平凡に穏やかな日々を送る。ところが、幼いボンソクに飛行能力が宿っていることに愕然とする。やがて、かつての安全企画部幹部たちに一家の居所を突き止められてしまった。ミヒョンとボンソクが逃がし、ドゥシクは拘束される。こうして一家は散り散りになっていく。

安全企画部から逃れながら、ボンソクをたった一人で育て上げたミヒョン
安全企画部から逃れながら、ボンソクをたった一人で育て上げたミヒョン[c]2023 Disney and its related entities

「決してボンソクの能力を知られてはいけない」というドゥシクとの約束を胸に、ミヒョンは彼の好んだとんかつで食堂を開きながら、ボンソクと目立たず暮らしていく。ボンソクの身体に重りをつけ、過食で体重を増やしていたのは空を飛べなくするためだった。

驚異的な回復能力を持つ父と娘、ヒスとジュウォン

そんなボンソクが、転校生ヒス(コ・ユンジョン)との出逢いをきっかけに、自分の能力と正面から向き合うことになる。

不思議な転校生ヒスもまた特殊能力の持ち主だった
不思議な転校生ヒスもまた特殊能力の持ち主だった[c]2023 Disney and its related entities

ヒスは明るく快活な少女で、スポーツ系の大学への進学を望み体力強化に励んでいる。高校三年という最も重要な時期に転校したのは、苦い経験がある。以前在籍していた高校でクラスメートが不良グループから苛烈な校内暴力を受けていた。何度も立ち向かおうとするが、そのたびにヒスの心は揺れ続け、勇気が出せなかった己を責めた。結局、ヒスは17人を相手に死闘を繰り広げ、退学することになる。正義感の強い真のヒーローであり、青少年らしい苦悩も垣間見せる奥深いキャラクターだ。

ヒスを見守るのが、父ジュウォン(リュ・スンリョン)だ。彼女の回復能力は、彼から受け継いだパワーだった。

娘の大好物であるフライドチキン店を営むジュウォン
娘の大好物であるフライドチキン店を営むジュウォン[c]2023 Disney and its related entities

不死身の肉体を持つ“怪物”のジュウォンはヤクザ仲間から重宝されていたが、曲がったことが嫌いな性格が災いし組織から疎んじられ、可愛がっていた弟分の裏切りに遭う。

今は優しい父親であるジュウォンも、かつては“怪物”と恐れられた
今は優しい父親であるジュウォンも、かつては“怪物”と恐れられた[c]2023 Disney and its related entities

彼の人生を変えたのが、あてどない生活を送っていたときにめぐり逢ったのが、喫茶店の女性ジヒ(クァク・ソニョン)だった。ジュウォンは強面だが、気は優しくて閉所恐怖症、方向音痴。ジヒはそんな彼の穏やかさに心を開いていく。

タバンアガシ(喫茶店からコーヒーを配達し、買春もする若い女性)だったジヒと運命的に出逢う
タバンアガシ(喫茶店からコーヒーを配達し、買春もする若い女性)だったジヒと運命的に出逢う[c]2023 Disney and its related entities

ジヒの窮地を救ったことをきっかけにジュウォンの存在が明るみになり、安全企画部に見出されて成り行きのままに特殊任務の要員となる。ドゥシクの良き相棒として数々の功績を上げていくが、銃撃事件をきっかけにした組織の解散で失職する。一般社会に苦慮しながらもジスと家族になり、ささやかな暮らしを続けていた矢先、ジヒとヒスが交通事故に遭う。大惨事の中でヒスだけが生き残ったことから、ヒスの特殊能力に気づく。やがて安全企画部が再び自分たちを利用しようと企んでいることを知り、ヒスを連れて逃れるように韓国を転々としていく。

超能力を持ち悩みながら現在を生きる子供たちと、過去の秘密と能力を隠してきた親たち。キャラクターから見える家族の切ない葛藤

ヒスと通学バスの中で偶然知り合ったボンソクは、他愛なく会話しているうちに突然自分の身体が宙に浮く感覚をおぼえる。能力がコントロールできないときは円周率を唱えて落ち着くのが習慣となっていて、ボンソクは必死につぶやいて耐えようとする。それでもある時、自宅へやってきたヒスに「私のことが好き?」と図星を突かれた瞬間に身体が空中へ浮かび上がり、円周率も途中から思い出せなくなる。

ミヒョンとドゥシクのキスシーンでも、それまでクールに、時にずっこけてしまうようなオヤジギャグを振りまいてきたドゥシクが、高まる感情のままふわりと宙に浮きはじめる。恋心を自覚して身体が“舞い上がる”という字義どおりのシーンだが、「ムービング」では実に感動的だ。韓国映画やドラマは甘い恋の描写を得意としてきたが、新たな恋のシーンとして韓国ドラマファンに記憶されるだろう。

こうしてヒスを思えばこそ、ボンソクは初めて母に反発する。ヒスが講堂でトレーニングに励んでいたある日、バスケットゴールが落下して顔を直撃しそうになる。ボンソクは瞬時に飛ぼうとするが、身体が重くて倒れてしまった。ヒスは間一髪で難を逃れるが、大事な人を救えなかったやり切れない思いがボンソクを苦しめる。その夜、全ての重りを外し、もどかしさを抱えて空中を飛び回るボンソクをミヒョンは「お父さんのようになりたいの?」と強く叱責するが、「僕は飛びたいんだ!」と号泣する。たった一人で奮闘する母を思い自分の本心を隠してきたボンソクが、ついに感情を爆発させる忘れがたいシーンだ。互いへの気持ちがすれ違う母子の姿が切ない。

超高速能力と怪力を持つ父子ガンフンとジェマン、そして「イナヅママン」ゲド

ボンソクのクラスの学級委員、ガンフン(キム・ドフン)もまた、超高速と怪力能力の持ち主だ。頭脳明晰な優等生でどこか冷徹で影のある彼だが、ヒスには温かい表情を見せる。講堂でのヒスの事故を助けたのも彼だった。

チョンウォン高校の生徒は仮の姿、実は国家情報院の要員見習いのガンフン
チョンウォン高校の生徒は仮の姿、実は国家情報院の要員見習いのガンフン[c]2023 Disney and its related entities

ガンフンの能力は、毎日息子の帰宅を待ちわびる優しい父ジェマン(キム・ソンギュン)から受け継いだ。ハンディキャップを理由にジェマンは安全企画部の徴集を免れたが、優秀だった息子ガンフンが目をつけられた。ジェマンには過去、やむにやまれず犯した暴行事件で逮捕歴があった。ガンフンは父の罪状抹消を取引に国家情報院に引き入れられた、影の要員なのだった。ガンフンの父をみつめる眼差しには、愛情だけではない言い知れぬ感情が入り交じった複雑さがある。

ガンフンを心から愛おしむジェマンは、営むスーパーの前で息子を待ち続ける
ガンフンを心から愛おしむジェマンは、営むスーパーの前で息子を待ち続ける[c]2023 Disney and its related entities


チョンウォン高校の生徒たちとともに、また別の人生を送る超能力者がいる。自由に電流を操る能力者ゲド(チャ・テヒョン)だ。

自由に電流を操る能力者、ゲドを演じるチャ・テヒョン
自由に電流を操る能力者、ゲドを演じるチャ・テヒョン[c]2023 Disney and its related entities

子供番組の人気きぐるみヒーロー「イナヅママン」としてお茶の間を席巻していたが、パワーの制御が出来ずに失敗が続いてクビになる。偶然出くわしたバスのエンストを、持ち前の電気パワーで修理したことがきっかけで運転手として採用される。ボンソクが「イナヅママン」として彼を認識していたというエピソードから分かるように、彼らよりずっと年上だが、ゲドもまた“ブラック”の父から異能を受け継ぎ、どうやらそのせいで父子の間には微妙なわだかまりがある。

親の世代はその負の連鎖を食い止めたいと必死で抵抗し、子の世代も苦悩する。家族の思いはいつしかすれ違い、時に軋轢さえ生む。彼らの姿を見ていると、親から子へ受け継がれるスーパーパワーは喜ばしいギフトというより、求めてもいないのに授けられた宿命なのだ。

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