“第二の「イカゲーム」”との呼び声も高い「ムービング」のメインキャラをチェック!世代で継承する超能力の苦悩と希望
超能力者を利用する組織、謎の暗殺者たち…ヒーローたちが巨大な危機に立ち向かう!
「ムービング」でボンソクたちをつけ狙うヴィラン的な存在として、かつて韓国政府に実在した国家安全企画部がキーワードとなる。当時、安全保障面で北朝鮮への対抗を推し進めていたこの組織を牛耳っていたのが、ミン・ヨンジュン(ムン・ソングン)だ。
安全企画部次長として特殊任務を遂行する組織を運営していた。権力欲が強く、都合が悪い相手は簡単に排除する彼にとって、超能力者たちはコマに過ぎない。ミン次長は、1980年代の韓国における暴力的な国家権力の象徴だ。ドゥシクの銃撃事件で負傷し閑職へ追いやられたものの、安全企画部が国家情報院になる機会に企画判断室へ返り咲き、次世代の超能力者たちをみつけ出そうとチョンウォン高校を拠点に暗躍する。
超能力者たちをつけ狙う謎の勢力も出現する。英語を操るフランク(リュ・スンボム)は、引退した工作員たちを次々と抹殺するスナイパーだ。「子供はいるか?」と尋ねているあたり、次世代の超能力者にも狙いを定めているようだ。こうした“仕事人”が続々と登場し、不穏な空気が漂う。
「ムービング」にはアクションヒーローバトルの面白さがある一方、特に時代背景については暗い影がある。ドゥシクやミンヒョンたちがメインとなるシーンでは、実際の事件が多く散見される。乗員乗客全員が死亡した1987年の大韓航空爆破テロ事件。朝鮮半島が緊迫感に包まれた1994年の金日成死亡。北朝鮮の工作員を乗せた潜水艦座礁に端を発する、1996年の江陵浸透事件。1987年6月に韓国は民主化を宣言するが、「ムービング」はその前後の韓国近現代史をなぞると同時に、国家権力がいかに個人の生き方を利用し翻弄してきたかを、特殊能力を宿命的に背負った者たちの闘いと絆を通じエンタメ感を交えながらも力強く描く。
そうした中で、ボンソクとヒスの存在は親たちとはまた違ったメッセージを放つ。自身の秘められた力を「おかしい」と思い悩むボンソクに、ヒスは「何がおかしいの? 特別なことじゃないの?」「あなたはおかしくない。少し違っていて、特別なだけだ」ときっぱりと伝える。彼女の言葉は、多様性を訴える現代にあって改めて福音のように響く。
自身の超能力に葛藤しながらも希望を見出そうともがくボンソクやヒス、ガンフンの姿には親世代が隠したがった悲劇の宿命を、次世代が乗り越えようとするタフな意志を予感させる。彼らや彼女の活躍を最後まで見守ってほしい。
文/荒井 南