怖い?笑える!?“降霊会“が登場する映画の傑作&怪作セレクション
ケネス・ブラナーが名探偵ポアロに扮するシリーズ第三弾『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』(公開中)。本作で登場する「降霊会」は、大きな見どころのひとつ。そこで、ミステリー研究家の小山正が、降霊会が登場する映画をセレクト。『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』とあわせて“降霊会映画”について紹介する。
『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』では、ミシェル・ヨー扮する霊媒師が、参加者全員の中央に座り、幽霊と対話する。ゴージャスな雰囲気と怪奇現象のハデさもあって、なかなかの怪しさだ。
19世紀後半、霊魂の存在を信じる心霊主義(スピリチュアリズム)が一世を風靡した。併せて死者を呼び出す霊能者(=霊媒師)が陸続と登場。彼らが催す降霊会は活況を呈し、特に第一次世界大戦後は、戦死した肉親に会いたいという遺族たちの要望が激増し、大流行に至る。
イベント性が強い降霊会は、映像世界にも影響を与えた。映画創生期の1906年には、降霊会を揶揄する短編映画『Is Spiritualism a Fraud?(心霊主義は詐欺か?)』が作られたし、その後もたびたび映画に登場する。ウェブサイト「インターネット・ムービー・データベース(IMDb)」で、降霊会をキーワード検索すると、600作以上がヒット。「降霊会映画」というジャンルがあってもよいのではないか?という気分になってくるほどだ。膨大な作品群の中から、降霊会が登場する傑作&怪作映画を、まとめてご紹介しよう。
ミュージカルと降霊会のマッチング⁉『You’ll Find Out(そのうちわかるよ)』(40)
すべての降霊会映画が怖いわけではない。この映画のように、大笑いを誘う作品だってあるのだ。本作は、ビッグバンドのケイ・カイザー楽団が幽霊屋敷に招聘され、遺産乗っ取りの陰謀を阻止するというミュージカル・ホラー・コメディで、幽霊屋敷の悪人を、ベラ・ルゴシ、ボリス・カーロフ、ピーター・ローレという曲者俳優が演じている。バンド演奏&ミュージカル→幽霊屋敷物→ミュージカル→降霊会、という流れを経て、クライマックスの降霊会では、インチキ霊媒師役のルゴシがヘンな物理的トリックを使って、霊との会話を捏造する。そしてラストは楽しくミュージカルでジ・エンド。とまあ、変な映画なのだが、本邦未公開なのが惜しい。
名匠デヴィッド・リーンの幽霊コメディ『陽気な幽霊』(45)
笑える降霊会映画をもう一本。英国演劇界の巨匠で名優ノエル・カワードの芝居を、のちに『アラビアのロレンス』(62)などを撮った名匠デヴィッド・リーン監督が映像化した幽霊コメディ映画がこれ。浮気癖のあるミステリー作家が、小説のネタにしようと降霊会を催す。すると霊媒師が若くして死んだ前妻の幽霊を呼び出してしまい、現在の妻が嫉妬。三角関係の大騒ぎになる。
霊媒師を演じるのが、後にアガサ・クリスティ原作の映画でミス・マープルを演じる名女優マーガレット・ラザフォード。饒舌な彼女が催す降霊会はユーモアにあふれ、怖さは微塵もない。いや、そもそも降霊会は、ギャグのような存在なのかもしれない。怖さと笑いは紙一重、と言いますから。
13種の幽霊を呼び出す賑やかな降霊会『13ゴースト』(60)
B級怪奇映画の職人ウィリアム・キャッスル監督のオバケ映画。世界中から幽霊を蒐集するオカルト研究家ゾルバ博士が亡くなり、その家と幽霊、そして〈ゴースト・ビューワー〉という名のオバケが見られるスーパー・メガネを相続したサイラス一家が、次々に災難に巻き込まれる。霊媒師でもある家政婦イレーヌが催す降霊会は賑やかで、13種の幽霊(ライオン幽霊、首無し男の亡霊、骸骨幽霊、包丁を持つ料理人幽霊、等々)の造型は一見の価値あり。2001年に同タイトルでハリウッド・リメイクされ、ハイテク遊園地のようなオバケ屋敷とハデな幽霊たちが、楽しく映像化されていた。ただし、降霊会シーンはカットされている。
黒沢清監督がリメイクした英国の犯罪ドラマ『雨の午後の降霊祭』(64)
原題(SEANCE ON A WET AFTERNOON)と邦題ともに言葉の響きが美しいが、内容はバイオレンスあふれる英国製犯罪ドラマ。名女優キム・スタンリーが演じる狂気の女性霊媒師が、気弱な夫を操って誘拐事件を画策する。やがて迎える悲劇的な結末…。才人ブライアン・フォーブス監督の優れたミステリ・センスと、ムーディーな演出のおかげで、後半のサスペンスが強烈だ。クライマックスの降霊会シーンも俳優陣の熱演もあって、鬼気迫るモノがある。
なお、2001年、わが国の黒沢清監督によりTVムービー『降霊〜KOUREI〜』としてリメイクされた。ホラーが得意の黒沢清だけあって、降霊会シーンも含めて怪奇度はこちらの方が高い。