「ジョン・ウィック」監督が語る、“アクションアート映画”にするための美学「すべてのカットが美しくないといけない」
キアヌ・リーブスが裏社会にその名を届かせる伝説の殺し屋を演じる人気アクションシリーズ第4作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(公開中)。一度は裏社会の仕事から引退をしたものの、亡き妻が残した子犬を殺され、愛車を奪われたことをきっかけに復讐心を胸に再び殺し屋として舞い戻ったジョン・ウィックが、自身の命を狙うマフィアとの戦いを経て、ついに裏社会を牛耳る巨大組織、首席連合との決着が描かれる。
MOVIE WALKER PRESSでは、多くの作品でスタントコーディネイトを手掛ける「87イレブン」を率い、本シリーズの監督を務めているチャド・スタエルスキ監督にインタビューを敢行!スタントマン出身で『マトリックス』(99)ではリーブス演じるネオのスタントダブルを担当していたスタエルスキ監督の、本作に込めたアクションへのこだわりや、リーブスとの厚い信頼関係で創り上げたシリーズへの想いを語ってくれた。
「常に参考にしているのは、漫画やアニメ、西部劇や侍もの、それからギリシャ神話です」
第1作ではロシアンマフィア、第2作ではイタリアンマフィア、第3作ではモロッコを舞台にするなど、多国籍な要素が散りばめられてきた「ジョン・ウィック」シリーズ。そして、本作ではついに日本が舞台となり、ジャパンテイストやアジアンテイストが強く反映された作品として仕上がった。そのプロット作りは、リーブスと毎作議論を交わして生まれているとスタエルスキ監督は明かす。
「新しい『ジョン・ウィック』に取りかかる時は、毎回キアヌとどんな脚本にするか、どんなフィーリングやルックスにするかという話をします。そこで、常に僕たちが参考にしているのは、漫画やアニメ、西部劇や侍もの、それからギリシャ神話なんです。『コンセクエンス』では、アジアのバイブス、日本のフィーリングらしさを持ったものにしたい、ある種日本のアニメに近いネオ・ノワール的なものを目指そうということになりました」。
スタエルスキ監督は、テレビアニメ「カウボーイビバップ」などを手掛け海外でも高い評価を受けるアニメーション監督の渡辺信一郎と仕事をするなど、日本の映画監督やアニメ監督からも多く学びを得ているという。特に本作では、日本の作品に触れた影響がより色濃く出ており、あらゆる映画の要素を欲張りに取り入れる試みが行われている。
「今作では、日本のアニメが持つ色彩などの豊かさみたいなものを反映させたいと思っていました。さらに、ドニー・イェンとジョン・ウーの香港ノワールの流れ、ブルース・リーのテイストも入れたかったですし、もちろん侍ものとして黒澤明のテイスト、それからセルジオ・レオーネのマカロニ・ウェスタンも。そうしたものが全部合致したものが作りたかったんです」。
「ハイレベルなアクションができるのに、その戦いを最後まで取っておくのは効果的ではない」
本作でスタエルスキ監督とキアヌが表現しているもので、欠かせない要素となったのが現在アジアを代表するアクション俳優であるドニー・イェンと真田広之の出演だ。リーブスと共にスクリーンに登場することは、アクション映画ファンからすればまさに“夢の競演”。では、この驚きのキャスティングはどのようにして実現したのだろうか?
「シリーズの製作で使われるある部屋には、たくさんのボードが貼られていて、そこに僕たちが考える一緒に仕事をしたいキャストやスタッフの名前がたくさん挙がっているんです。ヒロユキとは、以前からずっと一緒に映画を作りたかったんですが、これまではなかなかタイミングが合わなかったんです。そこで今回は、脚本の執筆中の時点で連絡をして、『絶対に出ていただきたいので、スケジュールを空けておいてください』とお願いしました。もちろん、ドニーにも同じ連絡をしています。コロナ禍の影響でスケジュール調整も苦労したのですが、運良くお2人の出演が叶いました」。
イェンと真田を含め、スタエルスキ監督には今作の出演者たちを通して、それまでのアクション映画の構図とは違うものが描きたいという想いがあったそう。「良き監督であるためには、良きアクションで彼らをどのように演じてもらうことができるかというのが重要なんです。いわゆるアクション映画では善人と悪人がいて、劇中でそれぞれのアクションを魅せて、最後にはその2人が決闘のように対決するという単純な構図が多いですが、僕はそうした見慣れているシンプルな構造はつまらないと思うんです。出演者はそれぞれハイレベルなアクションができる力量があるのに、その戦いを最後の最後まで取っておくのはあまり効果的ではないですよね。だから本作ではどの登場人物も、仲間になる時もあれば、敵にもなるような、そういう緊張感のある作りにしているんです。それは、“フレネミー”(=フレンド×エネミー)という関係性ですね。それぞれに正義があって、観ている側が登場人物たちに思い入れができるようにしているんです」。
アクションを主軸に物語を紡ぐスタイルを貫いてきた本シリーズ。本作では、前3作以上にアクションとドラマが連動する作劇に力が入れられている。「アメリカのアクション映画では、悪役にあまり思い入れができない作りのものが多いんです。でも、それだと俳優の使い方が勿体ないという気持ちがあります。今回こだわったのは、『誰が勝つかわからないぞ』というところまで話と演出を持って行くことでした。僕はセルジオ・レオーネと黒澤明が大好きで、彼らは細かい脇役のキャラクターを演じる俳優まで自分で選んでいる。僕も同じようにこだわって、どんな役の方でも個人として面談し、彼らのバックグラウンドについて聞くようにしてキャスティングしています。そうすることで、主人公だけが勝つような雰囲気ではない『もしかしたら、ジョン・ウィックが負けるかもしれない」という描き方をしているんです」。