大沢たかおと原作者・かわぐちかいじが語り合う、『沈黙の艦隊』実写化への道のり「漫画にはない映像の力と“圧”を感じた」

インタビュー

大沢たかおと原作者・かわぐちかいじが語り合う、『沈黙の艦隊』実写化への道のり「漫画にはない映像の力と“圧”を感じた」

かわぐちかいじ原作の深いメッセージ性と潜水艦によるバトルアクションが融合した『沈黙の艦隊』(公開中)。実写化不可能と言われながら、原作の連載開始から約30年の時を経て、日米関係に対するタブーに切り込む大作映画として完成した。MOVIE WALKER PRESSでは、主人公の海江田四郎を演じ、プロデューサーとしても映画化に向けて並々ならぬ意欲を持って挑んだ大沢たかおと、原作者であるかわぐちかいじの対談を実施!大沢の作品に込めた熱意、そして自身の原作を託したかわぐちの想いをたっぷり語ってもらった。

「実写化を実現できたのは、“いま”というタイミングが大きかった」(大沢)

――大沢さんはプロデューサーとしても参加されていましたが、映画化に向けてかわぐち先生と直接お会いしてお話をされたのでしょうか?

大沢「そうですね。プロデューサーはもちろん僕だけではないので、いろいろと分担するなかの一人として参加させていただいています。僕がプロデューサーとして関わったのは、作品制作の準備にまつわる前半戦ですね。撮影が始まると、俳優としての立場の方が重要になってきますので。だから、かわぐち先生とお話させていただいたのも撮影に入るずっと前でした」

本作でプロデューサーも兼任した大沢
本作でプロデューサーも兼任した大沢撮影/河内彩

かわぐち「あれは昨年の8月頃ですかね?」

大沢「8月でした。いろいろと準備を進めていって、昨年の3月か4月頃に、映画化を実現できるだろうという方向になったんです。そこからいろいろと調整に入りまして、防衛省へ協力要請を含めたやり取りなどを進めていきました。そのなかで、制作に入る前に先生にお会いして、改めて我々の実写映画化に向けた気持ちをきちんとお伝えする機会をいただきました」

“実写化不可能”とされていた原作の映画化が実現!
“実写化不可能”とされていた原作の映画化が実現![c]かわぐちかいじ/講談社 [c]2023 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. All Rights Reserved.

かわぐち「『沈黙の艦隊』は、連載当時にも実写映画化をしたいという監督さんが実は何人かいらしたんですよ。でも、『どう映画化するのか』という部分での具体性が全然なかったんです。原作のファンで、なんとか実写化したいっていう気持ちは伝わるんだけど、どんな形でどう見せていくのかというビジョンを示してもらえなくて。その結果流れていってしまったという感じでした。その後、ラジオドラマとアニメでの映像化は実現したんですが、実写映画化は難しいことがわかったからか、そうした話はありませんでした」

大沢「そうだったんですね」

大沢と海江田のイメージがピッタリ重なったと語るかわぐち
大沢と海江田のイメージがピッタリ重なったと語るかわぐち撮影/河内彩

かわぐち「なので、実写化というのはやっぱり無理なのだろうと思っていました。当然漫画を描いてる時には、『絶対に実写化はできないだろう。やれるもんならやってみろ!』と思いながら描いていたんですが(笑)。でも本作の企画を伝えられた際に、どうやら大沢さんがプロデュースするという話も聞きまして、これは本気度が違うって思いましたね。さらに製作にはAmazonが関わるとも聞いて。大沢さんの姿勢と海外の大資本の会社が関わるスケールも合わせて、ひょっとしたら今回は実現するのかなという感じはありました。

実は当初、大沢さんが演じると聞いて、『ちょっと(海江田とは)違うかな』という感じも僕のなかであったんですよ。でも大沢さんの存在から発しているオーラみたいなもの、『実現したい、未来を構築したい』というエネルギーが、原作で描いた海江田艦長の世界平和を実現させようとするエネルギーと、イメージがピッタリと重なったんです。映画のなかだけではなくて、現実感として海江田という感じがして、『なるほど、この人だったら演じられる』と。これは演技だけじゃ無理なので、このエネルギーがしっかりあったのでお願いできるなと思いました」

――原作の連載から35年が経ったいま、「沈黙の艦隊」という作品を作る意味について、どのように考えていたのでしょうか?

全世界を巻き込む予測不能なストーリーが展開される
全世界を巻き込む予測不能なストーリーが展開される[c]かわぐちかいじ/講談社 [c]2023 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. All Rights Reserved.

大沢「本当にこればかりは、いろんな奇跡的なご縁があったなと思っています。第一に先生から許可をいただけたということですね。そしてスケール感がとてつもなく大きい作品なので、それが実現するには、制作費や製作のためのフィールド作りも含めて、それが可能なのかという課題もありました。

もう一つはこの作品の深いテーマ性です。『沈黙の艦隊』を映画化するとなれば、日米の関係や核などかなりのタブーに触れることになる。そこを真正面から切り込むことが、果たして許されるのだろうかという問題があって、日本の政府や防衛省が賛同してくれるかどうかにも関わってきます。でも本作を実現するには、協力を得ることがまず絶対必要な条件で、しかも中途半端な形でやるのでは駄目だと考えていました。描くならば徹底的にやらなければならないという想いがあり、そういう意味では、もしかしたら、5年前でも10年前でもこの作品はうまくいかなかったのではないか、という気はしていますね」

――うまく時代と重なったということですね。

大沢「そうですね。『沈黙の艦隊』の実写化の企画は、2年前ぐらいから始まったんですが、当時はまだロシアとウクライナの戦争は起こっていなかった。ただ、これからの国際情勢の変化に対しては不穏な空気があり、そのなかで偶然、この企画を政府や防衛省に協力をお願いすることになったんです。防衛省としても、安全保障や国防の問題を映画という形で国民に伝えることができるなら、それは『あり』なんじゃないかっていうのを、少しだけでも思っていただけたからこそ、本作が実現できた部分もあります。そういう意味では、“いま”というタイミングがやっぱり大きかったなと思いますね。

新型カメラ「ALEXA35」など、ハリウッド大作に引けを取らない撮影機材が使用されている
新型カメラ「ALEXA35」など、ハリウッド大作に引けを取らない撮影機材が使用されている[c]かわぐちかいじ/講談社 [c]2023 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. All Rights Reserved.


さらにもう一つ、ネットによる映像配信の普及もあります。それこそ10年前だったらまだあまりなかったんですが、昨今ではそれが当たり前になり、Amazonさんをはじめとした、アメリカの映像配信会社の大きな資本をお借りして、日本独自の作品を制作ができるというフィールドが、ようやくこの数年で固まってきた。こういった狙ってできることでないタイミングが、奇跡的にうまく重なることで、プロジェクトが始められたというのはありますね」

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