大沢たかおと原作者・かわぐちかいじが語り合う、『沈黙の艦隊』実写化への道のり「漫画にはない映像の力と“圧”を感じた」
「出てる人たちの情熱があっての作品だなと現場で感じました」(大沢)
――撮影現場で印象に残っていることはありますか?
大沢「やまと乗組員のメンバーたちとのやり取りですね。彼らはオーディションで選ばれて演じているんですが、本当によく頑張ってくれました。休憩時間も全員が原作を読んで研究していて。さっき先生もおっしゃった通り、乗組員たちは命を失う覚悟をして、なにか大事なものを捨てているんですよね。自分たちの理想のために行動しているがゆえに、彼らはすごく冷たいようにも見えるんだけど、実はものすごく熱い人たちなんです」
かわぐち「映画観ていてそれはわかりますよね。若い人がみんなその気になって、やまとの乗組員をしっかりと演じてくれている感じがしました」
大沢「実は、撮影に入る時に僕がみんなに言ったことがあるんです。『玉木宏さんが演じる深町が指揮する自衛隊の潜水艦たつなみは“赤く”燃える炎である。でも一番熱い炎は、青色でもっと透明に近い。だから我々はその青でも、透き通った真っ青の深い海のように、一番熱い炎を燃やして現場に居よう』と。これは、やまとクルーの心持ちに関係することで、乗員役のみんながしっかり理解してくれたから、あの空間を1ミリもぶれずに維持できたんだと思います。その姿勢がすごく励みになったし、自分も自信が持てた瞬間でもありましたね」
かわぐち「これはなかなか難しいことですよね。それもやっぱり、大沢さんの海江田の佇まいとか言葉とかの力があったからだと思います」
大沢「いやそんなことないです(苦笑)。みんながもう本当にこの作品を愛していて。若い人たちもみんな読んで感動していましたから。一生懸命原作を読んで、オーディションに来て、受かったらもう1回原作を読み込んで。原作をずっとカバンの中に入れて持っているわけですよ。そういう想いって、改めてエンタテイメントに必要なエネルギーだったりすると思います。なにか小細工とか、器用なものとかも通用しない時代なんで。自分たちの魂とかいろんなものを込めるっていうのを、一人一人やるっていう。もちろん、もの凄く予算はかかっているし、CGの表現もすごいんだけど、出てる人たちの情熱があっての作品だなと現場でいてわかりました」
――最後に、本作の見どころを教えてください。
かわぐち「普通の作品だったら、海江田を潰そうとする軍隊が出てきて、戦いがあってその戦いがサスペンスになっていて、最後は海江田が倒されて終わり…というのがドラマの基本だと思うんですよね。ところがこの映画では、海江田は糾弾されるんだけど、でもそれだけじゃない。『なにかをやりたかった、なにかを作り上げたい』という想い、それが“未来の構築”なんですが、そういう行動をする人物となっている。こんな人物が描かれるのは世界で初めてなので、ぜひこの映画を世界中で観てほしいです。しっかりと観てもらえれば、この作品が人物の魅力で引っ張っていくサスペンスであるということ、そしてこの映画はいかに新しいかということがわかると思うんです。ハリウッドではこの作品を映像化することはできない。いまの日本だからこそできるということを、世界中にわかってほしいですし、観ればそれが伝わると思います」
大沢「先生がおっしゃるように、『沈黙の艦隊』というタイトルとやっぱり原作の力が強すぎて、ものすごく重厚なんですよね。それでいて、もの凄く新しく、斬新で、実験的な作品なんです。それは映画の構造もそうだし、CGも最先端のものとなっているし、撮影も本物の潜水艦の表面に小型カメラを付けて、潜行するシーンも撮ってますから。ストーリーも、予想通りに進んで予想通りの結末を迎える映画ではないことだけは間違いないです。『これは新しい時代の映画なんだ』と、そういうふうに見ていただけたらうれしいですね」
取材・文/石井誠