「バレエはどこをとっても美しい総合芸術」漫画家・桜沢エリカが”8K”で「くるみ割り人形」を観る楽しさを語る

インタビュー

「バレエはどこをとっても美しい総合芸術」漫画家・桜沢エリカが”8K”で「くるみ割り人形」を観る楽しさを語る

チャイコフスキー作曲の「くるみ割り人形」はバレエ作品の中でもよく知られた作品の一つで、クリスマス時期には世界中で上演され、家族連れにも大人気だ。おなじみの心躍る旋律、にぎやかなパーティと大きくなるクリスマスツリー、ねずみの王様との戦い、雪が舞う中での群舞、そしてお菓子の国で展開される華麗な踊りなど、夢とファンタジーがあふれ、バレエの魅力が詰まっている名作である。

今回、東京芸術祭2023のプログラムの一つ「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜」では、舞台作品が超高精細8Kや立体音響などの高品質映像で上映される、またとないイベント。そこにラインナップされた8作品の中で、バレエ作品からは「公益財団法人スターダンサーズ・バレエ団(以下、「スターダンサーズ・バレエ団」)」の鈴木稔演出・振付による「くるみ割り人形」が上映される。ドイツのクリスマスマーケットに着想を得た舞台美術は、世界的に活躍するディック・バードが手掛け、オリジナリティのある設定で人気も高い。コンテンポラリーダンス(現代的なダンス)のような振付で、衣装もスタイリッシュな雪の場面もユニークな作品となっている。

「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜」は開催中
「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜」は開催中宣伝デザイン:六月 宣伝イラスト:芳賀あきな

少女クララは家族でクリスマスマーケットに出かける。クララが人形劇の小屋の中に入り込むと、そこでは人形たちとねずみたちの戦いが繰り広げられている。クララの協力でねずみをやっつけたくるみ割り人形は王子の姿に変身。雪の国を抜けると二人は人形の王国に到着し、そこでは人形たちによる華やかな宴が繰り広げられていた。楽しい宴の中で、クララは自分にとって一番大切なものは愛する家族だったことを思い出す、これがスターダンサーズ・バレエ団の「くるみ割り人形」のストーリーだ。

【写真を見る】バレエ鑑賞を趣味とする漫画家・桜沢エリカが「くるみ割り人形」を語る!
【写真を見る】バレエ鑑賞を趣味とする漫画家・桜沢エリカが「くるみ割り人形」を語る!

今回MOVIE WALKER PRESSでは、クリスマスの季節に欠かせないバレエ「くるみ割り人形」の魅力や楽しみ方を、「バレエ・リュス ニジンスキーとディアギレフ」などの作品があり、バレエを観るのが大好きだという漫画家の桜沢エリカに語ってもらった。

「『くるみ割り人形』にはバレエの魅力のすべてが詰まっていますよね」

「子どもが初めて観るバレエといったら『くるみ割り人形』か『白鳥の湖』ですよね。うちでも初めて観るバレエとして『くるみ割り人形』に子どもを連れて行く予定でしたが、連れて行く予定のお兄ちゃんが突然熱を出して代打で妹が行くことになりました。妹が(バレエを)観られるギリギリの年齢の5歳だったので、この時初めてバレエを観たのです。後に娘はバレエを習い始めて、18歳まで続けました。日本ではバレエを観に行くっていう習慣がないから、クリスマスぐらいは家族でバレエを観に行けたら素敵ですよね。そういう感じで初めて娘と『くるみ』を観に行ったのです」

「くるみ割り人形」の魅力の一つはチャイコフスキーの心躍る、美しいメロディの中に切なさも込められた音楽だが、桜沢はチェレスタという鍵盤楽器がキラキラした天上の響きを聴かせる「金平糖の精の踊り」の曲が特にお気に入りだそう。「『くるみ割り人形』の魅力は、やはりチャイコフスキーの美しい音楽ですね。私が子どものころに初めて買ってもらったレコードが『くるみ割り人形』だったのです。『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』が入っているLP2枚組を買ってもらったのですが、その中でも『金平糖の精の踊り』の曲が大好きでそればかりを聴いていました。うちの子どもたちは、ディズニーランドに行くとパーク内で、金平糖の精の曲が流れているから、『すごく怖い音楽だ』って思っていたみたいですが(笑)。『くるみ割り人形』のバレエを初めて観た時、聴き慣れていた音楽と合わせて踊る『金平糖の踊り』を観て、不思議な感じがしました。音楽ばかりを先に聴いていたから、この曲には踊りがあったんだ、っていう驚きがありましたね」

「くるみ割り人形」の多彩な魅力の中でも、ファンタジックで夢が広がる舞台転換には、思わずワクワクさせられてしまうそう。「『くるみ割り人形』にはバレエの魅力のすべてが詰まっていますよね。私が好きなシーンは、クララがお菓子の国に行く時に、セットが変化してくるところです。クリスマスツリーが大きくなったりドロッセルマイヤーの魔法がかかったり、見ていて興奮しますね。自然とそういう夢の世界にいざなわれる感じがとても好きです。あとバレエ団によって美術が違うのですが、ねずみが可愛くないと、ちょっと物語に入れないんですよね(笑)」

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「クラシカルな『くるみ割り人形』では、クリスマスの夜の奇跡をどれだけマジカルに見せられるかが勝負」

スターダンサーズ・バレエ団の「くるみ割り人形」では、ねずみはクリスマスマーケットの屋台に出演したり、人形芝居の時にもチョロチョロと出てきたりするのが特徴的で愛らしい。「ストーリー展開が決まっている、クラシカルな『くるみ割り人形』では、バレエ団ごとの特色を出しづらいかもしれませんが、クリスマスの夜の奇跡をどれだけマジカルに見せられるかが勝負だと思っています。その点でスターダンサーズ・バレエ団の『くるみ割り人形』は、1幕での人形芝居の小屋に羽が生えて馬車に変わり、人形の国に飛び立っていくところが驚きで新鮮!あと、特に雪の衣装が可愛かったです。また子どもたちの合唱団が、客席から見えるところで歌っているのも良かったですね」

今回の「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo」では8Kによる映像で、肉眼では見えないところまで見えるほどの精密な映像と、優れた音響の大画面が魅力だ。桜沢も、映画館で見るバレエ作品を楽しんで観ているそう。「映像だと、最高のパフォーマンスが残り続けるところがいいですね。いまは海外のバレエ団の公演でも、上演した2~3か月後にすぐ観られるから、そのバレエ団のリアルタイムが手に取るようにわかるのがすばらしいです。例えば、英国ロイヤル・バレエ団の映像だと、ロンドンの現地まで行かなくてもいいし。しかも映像によっては往年のプリンシパル(最高位のダンサー)にインタビューしたり、リハーサルの風景を挟んだり、舞台袖で歓声が聞こえたり、臨場感があるのがとても楽しいですね」

スターダンサーズ・バレエ団による「くるみ割り人形」では、1幕のパーティのシーンがクリスマスマーケットとして描かれる
スターダンサーズ・バレエ団による「くるみ割り人形」では、1幕のパーティのシーンがクリスマスマーケットとして描かれる撮影:HASEGAWA PHOTO Pro.

この「くるみ割り人形」の映像を観たあとで、12月9~10日にテアトロ・ジーリオ・ショーワで開催されるスタ―ダンサーズ・バレエ団の実際の舞台で追体験するという楽しみ方もできる。

桜沢は子どものころから少女漫画をたくさん読んでいたが、そのなかでもバレエ漫画が大好きだったという。そんな桜沢が語るバレエの魅力とは。「もともと私の年代は、小さいころに『アラベスク』などのバレエ漫画が流行していたので、周りにバレエを習っていた子がいるわけでも、本物の舞台を観ていたわけでもないけれど、バレエはすごく身近な存在だったんです。バレエのなにが一番好きかというと、セリフがなくて音楽そのものを表現しているところ。海外に行っても、バレエだとなにも気にせずに見られるでしょう。言葉がないことによって国境を越えられますよね。舞台美術も美しいし衣装も綺麗だし、それに音楽とかいろんなものが相まった総合芸術で、バレエはどこをとっても美しいです。今回の8Kの映像だと、これらの美しさをじっくり楽しめるので、またとない機会になると思います」

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バレエ公演に足しげく足を運んでいる桜沢。スターダンサーズ・バレエ団の「くるみ割り人形」はこの映像で観るのが初めてだったとのことだが、魅惑的な舞台装置やユニークな振付、そして主演の塩谷綾菜、林田翔平の美しく見事な踊りがすっかり気に入って、12月のスターダンサーズ・バレエ団の「くるみ割り人形」の公演もぜひ観て追体験してみたいと語ってくれた。そしていつかは本格的なバレエ漫画も描いてみたいそう。

取材・文/森菜穂美

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