オイルマネーを巡るアメリカの暗部をM・スコセッシが映画化…欲望まみれの先住民連続怪死事件を生みだした背景とは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
オイルマネーを巡るアメリカの暗部をM・スコセッシが映画化…欲望まみれの先住民連続怪死事件を生みだした背景とは?

コラム

オイルマネーを巡るアメリカの暗部をM・スコセッシが映画化…欲望まみれの先住民連続怪死事件を生みだした背景とは?

マーティン・スコセッシ監督×レオナルド・ディカプリオ×ロバート・デ・ニーロという豪華な座組みで注目を集めている『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』がついに公開となった。本作が扱うのは、いまから100年ほど前に実際に起こったアメリカ先住民の連続怪死事件。観る前に知っておくとより映画がわかりやすくなる、この事件の背景について解説していきたい。

オクラホマの先住民を襲った連続殺人事件の恐怖

捜査官のホワイトは、証拠重視の捜査で土地に巣食う暗部に迫っていく
捜査官のホワイトは、証拠重視の捜査で土地に巣食う暗部に迫っていく画像提供 Apple

事件の概要を知るという意味でも、まずは映画のあらすじを紹介。地元の誰もが慕う有力者である叔父のヘイル(ロバート・デ・ニーロ)を頼り、オクラホマの地へと移り住んだアーネスト(レオナルド・ディカプリオ)は、その土地に暮らす先住民オーセージ族のモリー(リリー・グラッドストーン)と恋に落ち夫婦になる。

幸せな日々も束の間、ある日、モリーの姉アナ(カーラ・ジェイド・マイヤーズ)が渓谷で腐乱死体で発見されると、これを皮切りに次々と先住民やその周囲の人々を狙った不可解な連続殺人事件が発生。街が混乱に包まれるなか、ワシントンD.C.から派遣された捜査官のホワイト(ジェシー・プレモンス)はこの土地に巣食う深い闇と直面することになる。

映画のベースとなっている事件は、1920年代初頭を中心に、オクラホマ州オーセージ郡で先住民や石油業者などを含む、少なくとも24人が次々と不可解な死を遂げたというもの。新聞で“恐怖時代”と言われたこの時期だけでなく、実は1910年から1930年にかけて100人以上が不審死を遂げているという見解もある闇深き事件なのだ。

迫害によって流れ着いた荒地の地下には…

【写真を見る】アメリカ先住民オーセージ族を襲った連続殺人の悲劇を知っているか?
【写真を見る】アメリカ先住民オーセージ族を襲った連続殺人の悲劇を知っているか?画像提供 Apple

事件について知るうえで欠かせないのが、オーセージ郡がどのような土地かということ。遡ること17世紀、もともとオーセージ族は、現在のミズーリ、カンザス、オクラホマ、ロッキー山脈西部にいたるまでの広大な土地を領地と主張していたが、時のジェファソン大統領から土地の一部を手放すよう、半ば強制的に迫られ、カンザス州南東部の区域へと追いやられていく。

さらにこの土地も開拓者である白人に迫られ渋々売ると、土地を追われた多くの先住民は“涙の道”の最終地点、現オクラホマ州北東部の岩だらけの保留地へと辿り着くことに。しかしその数十年後、荒地の下にはアメリカ最大の油田が眠っていることが発覚。一獲千金を夢見る白人の入植者たちが土地に流入するなか、オーセージ族は石油を手に入れようとする探鉱者からの権利料によって富を築いていく。

街ぐるみでオーセージ族を食い物にした悪名高き制度とは?


オーセージ族は「均等受益権」によって、莫大なる遺産を築き上げていくが…
オーセージ族は「均等受益権」によって、莫大なる遺産を築き上げていくが…画像提供 Apple

当時1人あたりの資産が世界一の部族となっていったが、その一方でオーセージ族は自分のお金を自由に使うことができなかった。保守層は先住民が富を持つことを快く思わず、そういった層に支えられる政治家たちもまた、先住民に対して不利な制度や法律を成立させていく。

その一つが「資産後見人制度」だ。政府から押し付けられたこの制度によって、お金の管理をできない「人種的弱者」とみなされた先住民は、後見人によって支出を管理されることに。さらにこの制度に加え、年に数千ドルしか引きだすことできないという制約も課されていたのだそう。

白人の後見人や遺産管理人のなかには制度を悪用する者も多く、被後見人のためと言いながら自分のためにお金を使う者など、何百万ドルというお金が先住民から巻き上げられてしまう。さらに政治家や判事までもが、選挙での投票の見返りとして後見人の地位を与えると有権者に訴えかけるなどし、街全体で後継人制度を利用した不正を行っていたというから驚きだ。


『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は10月20日(金)より公開
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は10月20日(金)より公開画像提供 Apple

後見人制度の悪用に加えて「均等受益権」も先住民たちが狙われることになった大きな理由の一つだ。鉱物信託から均等に利益を受け取る「均等受益権」は売買することができず、正当に手に入れる唯一の方法が相続なのだ。

そしてこの「均等受益権」を巡る欲望のために次々とオーセージ族の人々が犠牲となっていくことになり、とある人物の周囲でも家族が不審死を遂げていってしまう…。

欲望が生んだオーセージ族の悲劇がどのように映画で語られていくのか?そして連続怪死事件は誰によって仕組まれたものなのか?その全貌は劇場に足を運んで、確認してほしい。

文/サンクレイオ翼

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