フランソワ・オゾン最新作でクセ強キャラを好演!イザベル・ユペールが明かす原動力「監督はなによりも大事」
映画が無声映画からトーキーへとシフトした直後のパリで、有名映画プロデューサーが自宅で殺害される。容疑者として浮上したのは無名女優のマドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)だ。彼女はルームメイトの新人弁護士、ポーリーヌ(レベッカ・マルデール)が書いた筋書き通り、正当防衛を主張して見事無罪を勝ち取ったばかりか、事件をきっかけに人気スターへと駆け上がる。ある日、かつての大女優、オデット(イザベル・ユペール)が真犯人として名乗りでるまでは…。フランスのエスプリたっぷりのクライム・ミステリー『私がやりました』(公開中)。監督のフランソワ・オゾンは物語の中盤でこの映画のムードも色彩も変えてしまうジョーカー的役割をイザベル・ユペールに依頼した。そこで、ユペールはこの役をどう解釈し、どう演じたのか?パリと東京を繋いだオンラインインタビューで、役作りの秘密と醍醐味を本人に訊いた。
「エキセントリックで常軌を逸したような役を演じるのはとても楽しい」
「オゾン監督とは『8人の女たち』以来になります。監督が目指しているのは『8人の女たち』のような美的スタイルであって、オデットについてはちょっと誇張して演じればいいのだろうと予想していました。その分、マドレーヌとポーリーヌのほうが少しリアリスティックですよね。オデットみたいにエキセントリックで常軌を逸したような役を演じるのはとても楽しいです。心から、たっぷりと堪能させてもらいました」。
そう答えるユペールの表情は大きく変わることはないが、役を楽しんだことがPCの画面からもひしひしと伝わる。一方、そんな彼女をコントロールしたオゾン監督はユペールのユーモアに特別な魅力を感じるとコメントしている。我々もいままでどれだけ彼女の自然体を装った“演技にすら見えない演技”に、虚をつかれ、驚かされてきたことか。それはシネフィルならではの醍醐味である。まして、今回は無声映画の画面から抜けだしてきたような、大袈裟でコミカルな役柄だ。オゾンによると、オデットは無声映画の大スター、サラ・ベルナールにインスパイアされたキャラクターだとか。
「サラも私も赤毛でちょっとカールがかかっているし、そういう意図はあったかも知れません。だからといってアーカイブ映像を見たり、資料を開くなどその種のリサーチは一切していません。私の記憶の中に残っているサラ・ベルナールを参考にはしましたけれど。そもそも記録があまり残ってないし、どちらかといえば、いまの時代には不釣り合いな過去の俳優たちのなかの1人を演じたという感じです。特に、物すごく早口で饒舌なところなんて、無声映画の俳優独特のパターンですよね」。
マドレーヌ役のナディア・テレスキウィッツは本年度セザール賞で、将来有望な女優賞に選ばれた実力派であり、ポーリーヌを演じるレベッカ・マルデールも、一昨年同賞の候補に名を連ねている。世代が異なる俳優たちと共演する場合、意識することはあるのだろうか。
「2人とも若くても経験がある女優たちです。そもそも、私は若い人たちと共演する時、経験の有無はあまり考えません。もちろん、まったく未経験の場合は別ですけれども。レベッカに関して言えばコメディフランセーズでのキャリアがあるし、ナディアも充分な経験の持ち主です。だから例えば、私が先輩だからといって知識を伝授するようなことはないです。現場ではまったく同じレベルで仕事をしましたよ」。