誰の物語に共感する?安アパートで暮らす4人の生き様が交差する、昭和レトロな人情群像劇『コーポ・ア・コーポ』とは
個性豊かな住人たちが抱える、それぞれの“現在”
居酒屋の店員として働くユリの元に、弟のカズオ(前田旺志郎)が突然訪ねてくる。祖母が入院したと聞き、一緒に病院に見舞いに向かうことになるのだが、そこでユリは兼ねてから折り合いの悪い母親(片岡礼子)と鉢合わせしてしまう。さらにカズオから、同棲相手が妊娠したという相談を持ちかけられ、その際に言われた言葉でユリは複雑な気持ちを味わってしまう。
ユリを演じるのは馬場ふみか。『AWAKE』(19)、『恋は光』(22)、『ひとりぼっちじゃない』(23)と、ここ最近女優としての活躍目覚ましい彼女が、金髪にスカジャン姿でタバコをふかし、猫を愛でる。ぶっきらぼうながら、時折見せる行動の丁寧さ。いくつものアンバランスさによって多くを語らずともユリというキャラクターの複雑なバックグラウンドが体現されていく。
一方、日雇いの建築現場で働いている石田は、すぐ激昂してしまう性格。そのせいで休んでいた仕事に復帰した日、新しく入ってきたアルバイトの女子大生、高橋(北村優衣)と出会い、彼女にささやかな好意を抱くようになる。いつの間にか高橋はユリらコーポの住人たちとも親しくなるのだが、石田は彼女に「住む世界が違う」という劣等感を持つようになる。
この石田役の倉悠貴は、『こいびとのみつけかた』(公開中)に続いて不器用な青年役がよく似合う。同作と不器用さの方向は異なるが、強い目力と感情のやり場を見失った時の戸惑いのギャップは本作でも見受けられ、また雨の夜に高橋を送りに行く際のビニール傘を開く仕草が良い味を出している。
どんな時もスーツ姿で、文豪のような独特なしゃべり方をする中条は、女性を口説き、架空の身の上話で金を貢がせながら生活をしていた。様々な女性と偽りの関係を築く彼は、人知れず苦悩を抱えるようになり、ある夜コーポの廊下でたまたま顔を合わせたユリにとある身の上話を語りはじめる。
中条を演じた東出昌大に関してはどの作品で観ても群を抜いた存在感を放っており、パリッとしたスーツ姿の雰囲気こそコーポとは不釣り合いではあるが、案外誰よりもコーポの飄々とした感じが似合っている。
そして、いつもコーポ前の自動販売機周りに小銭が落ちていないかと探している宮地は、コーポの2階でストリップショーの興行師をしながら日銭を稼いでいた。ある日、河川敷で見かけた少年を客として誘うのだが、彼が友人を連れてきたことで宮地の日常に小さな変化の機会が訪れる。
ベテランの笹野高史は言わずもがな。良い意味での胡散臭さが前述の若者たちを中心とした群像に珍妙なアクセントを与え続け、自身にフォーカスしたエピソードで、封印していた貫禄を一気に放出する。ちなみに、住人のひとりでありながらもその素情が描かれず、いつも住人たちにタバコの交換をせがんでくる恵美子役の藤原しおりも非常に気になる存在だ。