誰の物語に共感する?安アパートで暮らす4人の生き様が交差する、昭和レトロな人情群像劇『コーポ・ア・コーポ』とは
1本の映画で4本分のドラマを味わう!
家族関係の不協和やどこまでも不器用な恋模様、誰かに自分の身分を偽ることで自分を見失ってしまう男の悲哀、そして誰もがいずれ到達する老い。それぞれ異なるテーマをもった4つのエピソードが、一つのコーポという舞台設定のなかに凝縮され、一つのれっきとした映画を作りあげる。
オムニバスのような読後感を有しつつも、それぞれの出来事が誰かの物語にたしかに影響を与え、目に見えるかたちでひとつにつながっている。実に丁寧に作り込まれた正統派なヒューマンドラマの手応えだ。
なにか劇的な出来事が起こるわけでもなく、オフビートなトーンを維持し続けたまま、これだけ説得力のある物語に昇華させるには、脚本と演出、そして演技の三拍子がきちんと揃い、盤石のバランスを保つ必要があるだろう。そういった意味でも、人物描写の解像度がこの上なく高い原作があり、庵野秀明や岩松了ら強烈な感性をもつ作家のもとで助監督を経験した仁同正明監督の手腕と、安定感をもったキャスティングの妙味がある。これはもう納得せずにはいられない。
「ぼちぼちええ塩梅で生きとった」。終盤のシーンで宮地が言うこのセリフに、この映画のすべてが集約されるように、どんな生き方にもはっきりとした答えを提示する必要もなければ、沈んで考え込む必要もない。ただちょっとだけ前を向いて、限りなく普段通りに自分の日常を送ればいいと。そんな住人たちの姿に、知らず知らずのうちに肩の力が抜け、自然と笑みがこぼれることだろう。
文/久保田 和馬
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