”願い星スター“の誕生には日本人クリエイターの活躍も?『ウィッシュ』を作り上げた2人の監督が明かす舞台裏
「実はスターの初期段階には、2人の日本人アニメーターが参加してくれました」(ヴィーラスンソーン)
――アーシャの「みんなの願いを守りたい」という願いに応えて舞い降りる、“願い星スター”は動きを含め愛らしく個性的なキャラクターですが、キャラクター作りやアニメーションで何か参考にしたものはありましたか?
バック「まずあの顔のハートの形はミッキーですね(笑)。これはキャラクターデザイナーが意識して取り入れたデザインです。特に初期のミッキーは目が点のような形をしていたので、眉毛がなくてもいろんな感情を表現することができたんです。時々はセリフもありましたが基本的にパントマイムだったので、アニメーターも動きや感情表現を含めてミッキーを参考にしていました」
ヴィーラスンソーン「動きまわるスターを見て、『どんなことを考えてるんだろう?』と観客の皆さんが想像する楽しみを入れたいと思いました。同時にスターがなにをしたいのかクリアでなければ物語的にはよくないので、そのバランスをすごく考えながら作ったんです。実はこのキャラクターの初期段階には、ヨーヘイさんと水鳥直子さんという2人の日本人アニメーターが参加してくれました」
バック「彼らがこの作品に“カワイイ”をもたらしてくれたんです(笑)」
――アーシャとマグニフィコ王のキャラクター造形のポイントを教えてください。
ヴィーラスンソーン「アーシャは希望、つまりホープフルなキャラクターで、マグニフィコは制御、コントロールのキャラクターです。ストーリー的にも私たちが生きていくうえで、どんなことがあっても自分の願いを追いかけるのか、マグニフィコのように失敗を怖れるあまりなにもしなくなってしまうのか。そして彼はそれをほかの人にも強要しようとしているわけです。でも私たちはアーシャのように、勇気を持って願いを追い続けてほしいと願っています」
バック「完璧です(笑)。私も同感です」
――お2人が特に好きなサブキャラクターは誰ですか?
バック「私はアマヤ女王です。夫であるマグニフィコの隠された一面を見て、彼女は自分にもなにかできるんじゃないかと考えます。そういう意味で鍵を握るキャラクターで、デザインを含め大好きなキャラクターです」
ヴィーラスンソーン「私はアーシャの祖父、サビーノですね。100歳と年齢を重ねたなかで、失意とか叶わなかった夢がいくつもあったかもしれません。それでもいまだに夢を追い続けることができるんだ、ということを表現しているキャラクターだからです」
「ディズニーでアニメーションを作りたいというビジョンを持っているなら、その夢をずっと追い続けてほしい」(バック)
――お2人とも幼いころからディズニー作品に親しんできたと思いますが、アニメーションの世界で働きたいと思ったきっかけになった作品はなんでしょうか?
ヴィーラスンソーン「私は『美女と野獣』ですね。ちょうどディズニー・アニメーションがミュージカル作品をどんどん作り始めた時期で夢中になり、ちょうど年齢的に絵が上手なってきたころだったので、いつの日かディズニーでアニメーションを作る仕事がしたいと夢を見るようになりました」
バック「私は4〜5歳の時に初めて映画館で観た映画が『ピノキオ』だったんです。それからディズニーに夢中になりましたが、アニメーションを仕事として追いかけたいと思ったきっかけは『ジャングル・ブック』です。軽妙な楽しさと魅力的なキャラクターの虜になって、そこからアニメーターを目指すことにしたんです」
――日本をはじめ世界中にディズニーで働くことを夢見ている若者は多いと思います。彼らになにかアドバイスをお願いします。
ヴィーラスンソーン「ディズニーで働きたいけど、どうせ受からないだろうと思って応募しなかった人もいると思います。実は私も落ちましたが、その後も何度もトライした結果ディズニーで働くことになりました。もし最初のころに諦めていたら、いまここにいないのです。みなさんもぜひ諦めずトライしてください」
バック「私たちと同じように、いつの日かディズニーでアニメーションを作りたいというビジョンを持っているなら、その夢をずっと追い続けてほしいと思います。私がアドバイスするならば、夢を言葉にすること。言語化することが大切だと思います。スターが助けに来てくれたのは、アーシャがそれを言葉にしたからです。『私はこういう願いを持っています』と言葉にして伝えることで、誰か手を差しのべてくれる人が出てくるかも知れません。願いを達成できるかも知れないのです。実は私たちの『ウィッシュ』もそういうことを描いた映画なんです」
取材・文/神武団四郎