映画の原体験は『下妻物語』!アーティスト・ゆっきゅんがひも解くフランス映画の奥深さ「映画を観たあとに持ち帰った問いが、ずっと心のなかで生き続ける」
「おばあさんたちが高齢になったいまでもお互いに大切な友だちとして仲良くしている」(『ジャンキーばあさんのあぶないケーキ屋』)
続いては、1950年代からフランソワ・トリュフォー、クロード・シャブロル、ジャック・リヴェットといった“ヌーヴェルヴァーグ”の監督たちの作品で活躍し、2013年に74歳でその生涯を閉じたフランスの名女優、ベルナデット・ラフォン主演の痛快フレンチ・コメディ。今回が日本初公開となるジェローム・エンリコ監督の『ジャンキーばあさんのあぶないケーキ屋』(12)は、彼女にとってほぼ最後の主演作となった。
最愛の夫に先立たれ、わずかな年金で苦しい生活を送っている老女ポーレット(ラフォン)は、あまり治安のよくないパリ郊外の団地で一人暮らし。ある夜、団地の外で大麻の密売が行われているのを目撃し、密売人たちの稼ぎがいいことを知った彼女は、かつて夫婦でケーキ屋を営んでいたころの腕を活かし、大麻入りのクッキーやケーキを販売することを思いつく。ポーレットが作るお菓子はひそかに評判となり、事情を知った彼女の友人3人も店のスタッフとして参加することに。おかげでケーキ屋はますます繁盛するが、彼女たちの予想を超える成功は、やがて大切な孫の命を危険にさらす事態へと発展してしまう…。
主演のラフォンが出演したジャン・ユスターシュ監督の恋愛映画『ママと娼婦』(73)を昨年偶然にも観ていたというゆっきゅんは、「あの作品のマリー役の人が、40年後に、このおばあさんになったんだ!と思うと、楽しい気持ちになりました」と笑う。「おもしろい邦題のイメージどおり、おばあさんがやりたい放題する終始愉快なお話で、爆笑しながら観ていました。友だちにも『この映画観て!』と宣伝活動していますよ(笑)」。
本作に惹かれた一番の理由については、「まず、私は女性同士の友情が描かれている作品が好きなんです」と話す。「女友だちとの友情は、ライフステージの変化によって、30代前後の時期に離ればなれになってしまう…とよく言われるじゃないですか。それが、本作のおばあさんたちは、過去になにがあったかは知らないけれど、高齢になったいまでもお互いに大切な友だちとして仲良くしているという設定で。それが2人ではなくて、4人グループというのもすごくいいなって。古くからの友人なんでしょうね。ポーレットが『実はこのお菓子には大麻が入っていて…』と彼女たちに打ち明けた時、すぐに『そう。じゃあ、手伝うよ!』という反応が返ってきたところも、観ていて笑顔になりました」。
アナーキーなおばあさんたちが繰り広げるドタバタ劇でありながら、笑いだけでなく、心温まるシーンも多い。なかでもゆっきゅんの胸を打ったのは、終盤、ポーレットたちが大麻の密売で稼いだお金で旅行に出た時のワンシーン。「ギャンブルで一晩遊んだあとの夜明けの時間帯、酔っ払ってご機嫌の4人が手をつなぎながら、港の遊歩道を楽しそうにヘラヘラ歩いていく姿を後ろから撮っているんです。時々、船の汽笛の音に振り返る人もいたりして。みんな、自分たちがいずれ捕まることは心のどこかでわかっていて、これが最初で最後の旅行なんだ…と思っている感じが伝わってきて、すごくグッときました」。
独り身の高齢者の厳しい生活という、日本でも変わらぬ社会的なテーマを扱っていても、その語り口はどこまでもポジティブで軽やか。「夫もいないし、残り少ない人生だし、もう、やっちゃおうか!という、彼女たちのたくましさがおもしろかった。自由なおばあさんたちから元気をもらえる映画です」。
「精神的に自立していない思春期に、近すぎる関係になってしまうことの危うさ」(『呼吸―友情と破壊』)
3本目は、『イングロリアス・バスターズ』(09)、『複製された男』(13)などで女優としても活躍するメラニー・ロランが、自身とほぼ同世代の作家で“第二のサガン”と評されたアンヌ=ソフィ・ブラムスの17歳の時のデビュー作「深く息を吸って」を自ら監督として映画化した青春ドラマ『呼吸―友情と破壊』(14)。主人公の女子高生2人を演じたジョセフィーヌ・ジャピとルー・ドゥ・ラージュは、本作でそれぞれセザール賞有望若手女優賞、セザール賞最優秀女優賞にノミネートされるなど、その演技を高く評価された。
17歳のシャルリ(ジャピ)はまじめで内向的、友人に恵まれている一方で、どこか孤独を感じていた。そんなある日、サラ(ラージュ)という美しい転校生がやって来る。個性的でカリスマ性のあるサラは、なぜかシャルリを気に入り、2人は急接近。親しくなるにつれ、奔放なサラにどんどん惹かれていくシャルリだったが、いつしかその関係に綻びが生じ始める。シャルリが失われた友情を取り戻そうとすればするほど、サラの冷酷さはエスカレートしていく。
「精神的にまだ自立していない、自分と他人との境界がそんなにはっきりしていない思春期に、2人きりという近すぎる関係になってしまうことの危うさが描かれている作品でした。そういう時期に急激に仲良くなる女の子2人って、ずっと仲良いままではいなかったりするじゃないですか。普遍的な話だと思いつつ、その関係性がすごくリアルでしたね。観ていてヒリヒリ感を覚えるのは、きっと監督であるメラニー・ロランに、この物語を描かなきゃいけない!という切実さがあったからだと思います」。
ゆっきゅんは「2人の関係が変容するきっかけの一つ」として、サラに秘密があると感じたシャルリが、夜に帰宅する彼女をこっそり尾行し、家を覗いてしまったことを挙げる。「母親はNPO職員で海外にいる。自分は叔母と生活している」と周囲に語っていたサラの嘘が明らかになる描写だ。「サラが家に入ってから、カメラが横にゆっくりと移動していくショットはインパクトがありました。その直前にサラが学校で“サファリ”の話をしていたこともあって、まるで夜のサファリパークを見ているような感じがして。家の中には獰猛な母がいて、部屋の窓の柵は檻みたいに見えたんです。しかも、壁の外の暗闇にシャルリが静かに立っているっていう…青春ドラマから心理サスペンスへと切り替わった瞬間でした」。
終盤になってくると、様々なシーンで、キーンと響く耳鳴りのような音響が入っているのも印象的。「本当に自分の耳鳴りかと思っちゃうくらい。シャルリが感じているものが、観ているこちらの身体にも浸透してくる感覚でした。画面全体にあふれる、出口のない、切迫しているムードがすごいなと思いましたね。シャルリに喘息の持病があるという設定も効いていて、タイトルどおり、息が詰まるようなシーンが何度もありました」。
1995年、岡山県生まれ。青山学院大学文学研究科比較芸術専攻修了。サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」としてのライブを中心に、個人では映画やJ-POP歌姫にまつわる執筆、演技、トークなど活動の幅を広げる。2021年5月よりセルフプロデュースで「DIVA Project」を始動した。一番好きな歌姫は浜崎あゆみと大森靖子。修士論文のテーマは少女マンガ実写化映画の変遷。
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