映画の原体験は『下妻物語』!アーティスト・ゆっきゅんがひも解くフランス映画の奥深さ「映画を観たあとに持ち帰った問いが、ずっと心のなかで生き続ける」
「レポートの課題でBunkamuraル・シネマに行ったのが、フランス映画を劇場で観る初めての経験」
高校生の時から、音楽や美術、映画が好きで、「作品に触れた感動や自分の感性の部分を言語化できるようになりたいという想いから、映画評論家の方がいる大学だけを受験しました」と語るゆっきゅん。青山学院大学文学部比較芸術学科に進学したあとは、映画批評家の三浦哲哉のゼミに入り、映画監督の山戸結希をテーマに卒論を執筆。その後、進んだ大学院での修士論文では“少女マンガ実写化映画の変遷”をテーマにしたという。
そんなゆっきゅんに映画の原体験について尋ねると、「小学3年生の時に映画館で観た『下妻物語』です」との答えが返ってきた。「それ以降、実家のわりと近くにあった岡山県唯一のミニシアターに母親を連れて行く形で、いろんな映画を観に通いました。邦画ばっかりでしたけど。あと、oniビジョンという岡山県のケーブルテレビがあって、そこでスターチャンネルや日本映画の専門チャンネルを通して文化享受をしてきましたね」。
大学生になってからは渋谷の映画館を中心に、思う存分、映画鑑賞三昧の日々。「フランス映画に初めてきちんと触れたのも、大学の映画の授業がきっかけでした。まず、クラスみんなでジャン・ルノワール監督の『ピクニック』を観たんです。その後、当時が2014年春だったので、ちょうど公開されていた『アデル、ブルーは熱い色』を観てレポートを書きなさいという課題が出て。『アデル』は過激そうで、ちょっと無理かも…という人は、ジャック・タチ映画祭に行きなさいって(笑)。それで、いまは場所を移転したBunkamuraル・シネマに行ったのが、フランス映画を劇場で観るという初めての経験だった気がします」と、ゆっきゅんは懐かしそうに振り返る。
「映画や映像と、自分が歌う、表現していくことの関係が年々、密になっている感覚があります」
学生のころから好きなフランスの映画監督はエリック・ロメール。「新文芸坐のオールナイト上映には何回も行きました。ロメールの作品は古さをまったく感じないというか、私にはずっと新鮮に、新しいことに見えます。特に『緑の光線』とか『レネットとミラベル/四つの冒険』が好きですね。いわゆる大作とは違う、ちょっと力を抜いて観られる会話劇で、登場人物たちの人間関係を通して描く“人生のひととき”な感じが好きです」。
音楽活動をしているゆっきゅんは「映画からインスピレーションを受けることも多い」という。「こういう映画みたいな曲を書きたいなと思って歌詞を書いたりもすることもあります。次に出す曲は、一昨年日本で公開されたバーバラ・ローデン監督・脚本・主演の『WANDA/ワンダ』とか、アニエス・ヴァルダ監督の『冬の旅』とか、女性が1人で放浪するような映画にインスパイアされて作ったものなんです。特定の映画じゃなくても、頭のなかに浮かんだ映像を、どう歌に落とし込もうかと考えることも増えてきて。ずっと映画を観てきたので、映画や映像と、自分が歌う、表現していくことの関係が年々、密になっている感覚がありますね」。
「フランス映画は、わかりやすい大きな1つの答えがもらえるようなものではない」
ここ2~3年、フランス映画は新作というよりも「レトロスペクティブがあまりにも充実しているので、劇場で上映される監督映画特集によく足を運んでいる」とのこと。「サッシャ・ギトリ監督、ジャン・ユスターシュ監督、アルノー・デプレシャン監督、あとフランスじゃなくてベルギーですけど、シャンタル・アケルマン監督の特集上映にも通いました。リバイバルされるだけの価値があるってことだから、レトロスペクティブって信頼してしまうとこがあって。いまの感覚のまま昔の作品を観てもやっぱりおもしろいんですよね。そういう人が増えているみたいです。アケルマン監督特集では、代表作の『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』に比べればマイナーな『一晩中』を平日の夜の回に観に行ったのですが、ほぼ満席だったんです!」。
「フランス映画は、ハリウッド映画みたいにわかりやすい大きな1つの答えがもらえるようなものでは、たぶん、まったくない」と話すゆっきゅん。その代わりに「映画を観たあとに持ち帰った問いが、ずっと心のなかで生き続けたり、人生のとある場面で、これって、あの映画で観たアレだったのかと気づいたり…あとで咲くことが多いと思います。(少し難しいと思っても)肩の力を抜いて、適当にでも、どんどん観ていけばいいんですよ」と笑いながら、ニュアンスに満ちたフランス映画の奥深い魅力を表現してくれた。
スターチャンネルEXの「Gaumont(ゴーモン)」セレクションでは、「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」誌元編集委員でアンスティチュ・フランセの映画プログラム主任を務める坂本安美が作品セレクトを担当。ここで紹介した3作品のほか、ヴァレリー・ルメルシエが監督・脚本・主演を兼任した『愛しのプリンセスが死んだワケ』(05)やフランスを代表する名匠サッシャ・ギトリの『これで三度目』(52)、モーリス・ピアラ監督の長編デビュー作『裸の幼年時代』(68)といった日本初公開作品を含むバラエティに富んだ、見逃せない注目作がずらりと並んでいる。この機会に気になる作品をチェックして、フランス映画のおもしろさをぜひ体感してみてほしい。
取材・文/石塚圭子
1995年、岡山県生まれ。青山学院大学文学研究科比較芸術専攻修了。サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」としてのライブを中心に、個人では映画やJ-POP歌姫にまつわる執筆、演技、トークなど活動の幅を広げる。2021年5月よりセルフプロデュースで「DIVA Project」を始動した。一番好きな歌姫は浜崎あゆみと大森靖子。修士論文のテーマは少女マンガ実写化映画の変遷。
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