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日本映画が築いてきたものが実を結んだ!『ゴジラ-1.0』『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞にノミネートされた理由を分析

コラム

日本映画が築いてきたものが実を結んだ!『ゴジラ-1.0』『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞にノミネートされた理由を分析

一方、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(英題:The Boy and the Heron)は、昨年9月のトロント国際映画祭開幕作品として日本以外での初上映が行われた。

 第81回ゴールデン・グローブ賞でアニメーション映画賞を受賞
第81回ゴールデン・グローブ賞でアニメーション映画賞を受賞[c]2023 Studio Ghibli

北米公開は昨年12月8日。IMAXを含む全米2,205スクリーンで公開され、全米週末興行ランキングで1位に輝いている。この週のランキング3位は前週公開の『ゴジラ-1.0』で、日本映画がトップ3に2本入るという前代未聞の快挙を遂げた週となった。1月28日現在までの興行成績は4424万ドル(約66億円)で、アカデミー賞受賞作の『千と千尋の神隠し』の通算1520万ドル(約22億円)の2倍以上。

この大ヒットの理由には、2012年にそれまでウォルト・ディズニーが配給していたジブリ作品の配給を引き継ぎ、現在も全スタジオジブリ作品の権利を扱う北米アニメーション専門配給会社GKIDSの功労がある。GKIDSのデヴィッド・ジェステッド社長は、今作が“ダコタ”というコードネームで呼ばれていた時代からプロジェクトに関わり、英語吹替版のキャスティングについて考えを巡らせていた。だが、答えは出来上がった作品そのものにあったという。

現在GKIDSは全スタジオジブリ作品の権利を扱っている
現在GKIDSは全スタジオジブリ作品の権利を扱っている[c]2023 Studio Ghibli

『君たちはどう生きるか』の英語吹替版にカメオ出演している役者たちは、過去のジブリ作品で印象的なキャラクターの声を担当している。今回、『ハウルの動く城』でハウルを演じた木村拓哉同様に、英語吹替版でハウルの声を担当したクリスチャン・ベールが眞人の父親役を演じ、『天空の城ラピュタ』(86)でムスカ役を演じたマーク・ハミルは今回、大叔父役の声を務めた。眞人役こそ若手のルカ・パドヴァンが演じているが、青サギ役がロバート・パティンソン、老ペリカン役にウィレム・デフォー、インコ大王にデイヴ・バウティスタ、キリコ役にフローレンス・ピュー、ヒミ役に福原カレン、夏子役にジェンマ・チャンといった豪華キャストが揃っている。

GKIDSのジェステッド社長は、かねてから宮崎作品に参加したいと願っていた彼らへの出演依頼は難しいことではなかったと語っている。アメリカおよび世界での宮崎駿、スタジオジブリの人気は想像以上に高く、2021年に開館したアカデミー・ミュージアムの柿落としが「宮崎駿展」であったり、ワーナー・ディスカバリーのストリーミングサービスMAX(旧HBO Max)では、スタジオジブリの劇場公開全作品がライブラリーに並んでいる。こうした歴史の積み重ねによって、今回『君たちはどう生きるか』の興行成績1位につながっていった。

ハリウッドで起きたダブル・ストライキの影響も…
ハリウッドで起きたダブル・ストライキの影響も…[c]2023 Studio Ghibli

興行成績の話でいうと、字幕作品の『ゴジラ-1.0』、字幕と吹替版の『君たちはどう生きるか』が共に2000スクリーン以上をブッキングすることができたのは、夏から秋にかけて行われていたハリウッドのダブル・ストライキの影響と、時期的な理由が大きい。2023年秋の大作映画と考えられていた『デューン 砂の惑星 PART2』(3月15日公開)などが翌年以降に公開を先送りし、IMAXを含むスクリーンに余裕ができた。


例年、11月末から12月末までの1か月はアカデミー賞の候補基準を満たすために1週間だけ限定公開を行う作品が多く、たくさんのスクリーン数を確保する作品が並ぶわけではない。そして『ゴジラ-1.0』の公開日は感謝祭の翌週、「1年で最も観客動員数が少ない週」と言われ敬遠されがちな週末だった。感謝祭翌日からクリスマスまでセールが行われるため、クリスマスプレゼントの購入で忙しい人が多いからだ。だが、Eコマース全盛の現在はそれも古い風習に囚われた思い込みだったのだろう。とにかく、アメリカの観客は心から楽しめるおもしろい映画を渇望していた。

興収、そして賞レースでの『ゴジラ-1.0』と『君たちはどう生きるか』の快挙は、日本映画とそれを支えた人々が長い時間をかけてコツコツと築いてきたものが実を結んだ結果のように思える。現地時間3月10日、オスカー像は誰の手に渡るのだろうか。今年のアカデミー賞では、日本からも固唾を吞みながら日本映画の健闘を見守ってほしい。

文/平井伊都子


第96回アカデミー賞特集

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