差別や貧困などの社会問題に斬り込む!『福田村事件』『市子』ら2023年の話題をさらった社会派映画を振り返る
作品に説得力をもたせた、俳優陣の覚悟の宿った演技
また、出演陣の熱演も現象感を形成した重要なファクターだろう。『福田村事件』は井浦新、田中麗奈、永山瑛太ほか出演陣の覚悟が宿った力演の個々の際立ちはもちろん、そのアンサンブルが出色だった。『正欲』では、パブリックイメージを覆す複雑性を持ったキャラクターに挑んだ新垣結衣が話題を集めた。人に言えない衝動を抑えながら、“普通の人”として振る舞おうとする新垣に対し、稲垣吾郎がマイノリティを拒絶してしまう世の不寛容を体現した人物を好演。両者が相対するクライマックスが見ものだ。
そして『正欲』、『月』の2作でキーキャラクターに扮した磯村勇斗の躍動。これまでもカルト教団の闇に踏み込む『ビリーバーズ』(22)、格差社会の実態を描く『渇水』(23)、震災や信仰、有害な男性性等々をダークでシニカルに描いた『波紋』(23)といった個性的な作品に連続して出演してきた彼は、『月』で障がい者の殺傷事件を企てる青年を怪演。様々な側面から出演が躊躇われる役であろうが、果敢に挑みその狂気を演じ切った。磯村の芝居は観る者に衝撃を与え、本年度の各映画賞で助演男優賞を軒並み制する勢いを見せている。
また、『市子』の杉咲花も観客を打ちのめし、称賛の声が多数寄せられた。『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)『楽園』(19)等々、その繊細かつ激情が宿った演技力は誰もが知るところだろうが、本作によって一段階上のステージへと到達した印象だ。杉咲が扮した市子は生まれ落ちた瞬間から壮絶な宿命を背負わされてしまった主人公だが、悲劇的な側面だけにフォーカスしていない。その境遇を呪いながらも、他者を利用しながら生き抜いていこうとする強かさも描き出す本作で、シーンごとに異なる印象を与える多面的な人物を見事に現出させている。年末公開ながら本年度の毎日映画コンクールでは女優主演賞に輝き、日本アカデミー賞優秀主演女優賞を獲得と、ごぼう抜きを見せているのがその証拠といえるだろう。
社会に横たわる問題に臆せず斬り込み、ある種のリスクをとった噛み応えある力作たちが底力を発揮した2023年。今年もベルリン国際映画祭に出品された三宅唱監督作『夜明けのすべて』(2月9日公開)、濱口竜介監督作『悪は存在しない』(4月26日公開)、吉田恵輔監督×石原さとみ『ミッシング』(5月17日公開)ほか、現代社会を描いた話題作が続々と控えている。
文/SYO