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出演作2本がアカデミー賞ノミネート!『落下の解剖学』主演女優ザンドラ・ヒュラー、圧倒される表現力

コラム

出演作2本がアカデミー賞ノミネート!『落下の解剖学』主演女優ザンドラ・ヒュラー、圧倒される表現力

『関心領域』では強制収容所の所長の妻を演じる

もうひとつの『関心領域』でヒュラーは、第二次世界大戦化のポーランド、アウシュヴィッツ強制収容所の所長の妻を演じている。彼らの家は、収容所と壁ひとつ隔てた土地に建てられており、隣で起こっていることとは別世界の、平穏な日常が続いている。現実の悲劇をまったく知らされていない家族を、ゆっくりと覆っていく不穏な空気。そのプロセスが、ヒュラーの演技によって、われわれ観客にもリアルに伝わってくる。『落下の解剖学』でも『関心領域』でも、一見、無色透明のイメージを与えつつ、じわじわと本質をあらわにするキャラクターに、ヒュラーの俳優としての魅力がマッチしていることがよくわかる。

収容所の隣に住む所長一家の暮らしを描く『関心領域』にも出演
収容所の隣に住む所長一家の暮らしを描く『関心領域』にも出演[c] Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

この1年で急速に注目度がアップしたザンドラ・ヒュラーだが、ドイツを代表する俳優として、すでに確固たるキャリアを築き上げてきた。2006年の『レクイエム〜ミカエラの肖像』では、精神に変調をきたし、悪魔祓いを強いられる役で、ベルリン国際映画祭の最優秀女優賞を受賞。そしてヒュラーの出演作で最も世界的に知られているのが、アカデミー賞で外国語映画賞(現・国際長編映画賞)にノミネートされた、2016年の『ありがとう、トニ・エルドマン』。悪ふざけばかりする面倒くさい父親との再会で、仕事にも支障をきたすヒロインが、徐々に忘れかけていた何かを取り戻す。誰もが思わず共感してしまう役どころに、ヒュラーの誠実な演技のアプローチがマッチ。父親に強いられての、ホイットニー・ヒューストンの「The Greatest Love of All」の熱唱は、彼女の演技力、および歌唱力の見せ場で、この作品で最も印象に残るシーンとなった。『レクイエム』や『トニ・エルドマン』では、『落下の解剖学』や『関心領域』の抑えた名演技とは真逆の、熱演型としてのヒュラーの才能も発揮されている。


いたずら好きな父親に翻弄されまくる娘を好演した『ありがとう、トニ・エルドマン』
いたずら好きな父親に翻弄されまくる娘を好演した『ありがとう、トニ・エルドマン』[c]Everett Collection/AFLO

さらに『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(22)のマリア・シュラーダー監督による『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』(21)では、AIと人間の恋愛実証実験を見守る相談員を演じるなど、ドイツ映画での活躍はもちろん、『落下の解剖学』のジャスティーヌ・トリエ監督作では『愛欲のセラピー』(19)にも出演し、フランス映画でも重要な存在になりつつある、ザンドラ・ヒュラー。『落下の解剖学』でもわかるように、ドイツ語、英語、フランス語をこなせる彼女なので、今後はヨーロッパ圏だけでなく、ハリウッドでの躍進にも期待がかかる。そんなヒュラーの素顔をアカデミー賞授賞式で確認しながら、ノミネート2作で彼女の俳優としての才能をスクリーンで体感してほしい。

文/斉藤博昭

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